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三井松島ホールディングスは、長崎県の松島炭鉱に端を発し、石炭事業を核として発展してきた会社ですが、2010年代以降、非石炭事業を中心としたM&Aを推進しています。
この背景には脱炭素の世界的潮流があり、三井松島グループは将来的な石炭事業からの完全撤退を見据え、非石炭事業を経営の柱とすべく、経営の多角化を進めています。
以下では、三井松島ホールディングスの経営戦略とM&Aについて整理します。
また、本記事の概要は、こちらの動画でもご覧頂けます。
三井松島グループはどんな会社か?
三井松島グループの特性を表すのが、上図のグラフです。これは、三井松島グループの近年の売上高は、石炭事業*と非石炭事業の大きく2つから構成されていることを示しています。
*含む再生エネルギー事業
この背景となったのが、脱炭素という世界的な潮流、及びそれを受けた三井松島グループの非石炭事業の強化です。その手段として、M&Aが積極的に活用されており、2022年3月期には非石炭事業が石炭事業の売上高を上回っています。
三井松島グループの概要
三井松島ホールディングスの歴史は、長崎県の松島炭鉱を開発するために1913年に設立された松島炭鉱株式会社から始まります。その後、同じく長崎県の大島炭鉱、池島炭鉱の開発にも着手し、また1991年にはオーストラリアにも権益を獲得し、石炭の国内大手企業として成長します。
しかし、石炭市況に影響を受ける企業業績や中長期的な石炭需要の減少見通しから、2010年代以降、非石炭事業への進出による経営の多角化及び新たな収益基盤の確保を図ります。
MMライフサポートの設立による介護事業など、自社でゼロから新規参入したケースもありますが、多くはM&Aによる買収を通じ、新規事業への参画を果たしています。以下は、2012年以降の三井松島ホールディングスの主なM&A実績です。
- 2012年 永田エンジニアリング(石炭関連)
- 2012年 エムアンドエスサービス(リゾート型宿泊施設)(2020年に売却)
- 2013年 日本ストロー(飲食用資材)
- 2015年 花菱縫製(衣料品)
- 2016年 クリーンサアフェイス技術(電子部品)
- 2019年 明光商会(事務機器)
- 2020年 ケイエムテイ(ペットフード)
- 2020年 三生電子(電子部品)
- 2020年 システックキョーワ(住宅関連部材)
- 2022年 日本カタン(電力関連資材)
三井松島グループの事業内容
三井松島グループの事業内容は、上述の通り、大きく石炭事業*と非石炭事業に分けられます。(同社のセグメント区分では、エネルギー事業と生活関連事業。*ここでの石炭事業はセグメント区分におけるエネルギー事業を意味し、再生エネルギー事業も含む)
非石炭事業は、基本的には買収した会社単位で各事業分野を形成しており、事業ポートフォリオが分散し、経営の多角化が実現されています。
- 飲料用資材分野:日本ストロー
- 衣料品分野:花菱
- 電子部品分野:クリーンサアフェイス技術、三生電子
- 事務機器分野:明光商会
- ペット分野:ケイエムテイ
- 住宅関連資材分野:システックキョーワ
- 介護分野:MMライフサポート(自社で設立)
買収先の業績推移
買収先の多くがプラスのEBITDAを計上しており、三井松島グループとして石炭事業に依存しない事業ポートフォリオへの構造改革が進んでいると言えます。
三井松島ホールディングスの経営戦略とM&A
経営戦略におけるM&Aの位置付け
三井松島グループの経営戦略におけるM&Aの位置付けについて、以下のポイントから整理します。
- 脱炭素の潮流と石炭事業からの撤退
第1に、脱炭素の潮流と石炭事業からの撤退です。三井松島ホールディングスは、2010年代前半から長期的な石炭需要の減少を見据えM&Aを開始していましたが、その後の2010年代中盤以降の世界的な脱炭素の流れを受け、2018年策定の中期経営計画にて、2040年以降の石炭事業からの完全撤退の方針が示されました。 - M&Aによる新事業への進出
第2に、M&Aによる新事業への進出です。三井松島ホールディングスのM&Aの大方針は、「非石炭分野への進出・強化」であると言えます。実際、2012年のエムアンドエスサービスの買収以降、石炭とは関連が乏しい非石炭事業の買収を進め、2022年3月期においては、M&Aにより買収した事業を中心とする非石炭事業が会社全体の売上高466億円の内、58%の270億円を生み出しています。
M&Aの基本方針
三井松島ホールディングスは、M&Aの基本方針として、「安定収益・ニッチ市場・分かりやすさ」を掲げています。この背景には、規模が小さくとも確実な需要が見込まれるニッチ市場においては、競合企業の撤退後のマーケットリーダーによる残存者利益の実現が想定されることがあるものと思われます。
また、三井松島ホールディングスは、2018年策定の中期経営計画にて、2020年から2024年3月期までの5年間で300億円のM&A予算を設定しています。2022年5月時点での投資累計額は147億円であり、進捗率は49%とまだ多くの買収余力を有していると言えます。
M&Aプロフェッショナルチーム
三井松島ホールディングスのM&Aを実行しているのが、社内FAにあたるM&Aプロフェッショナルチームです。三井松島ホールディングスは、社長自身がM&Aアドバイザリー出身であり、2012年に三井松島ホールディングスに参画して以降、経営企画部長などの立場から同社のM&Aを推進してきました。その社長の傘下で、M&A経験者やM&Aアドバイザリー出身者が社内FAとして組織され、M&A案件の発掘・エグゼキューション及びPMIを担っており、同チームの存在が三井松島ホールディングスのM&Aの強みとなっていると推察されます。
PEファンドとのM&A
三井松島ホールディングスのM&Aの特徴として、PEファンドとのM&Aが多いことが挙げられます。
- 2012年 エムアンドエスサービス(リゾート型宿泊施設)…未詳(2020年、大和PIパートナーズに譲渡)
- 2013年 日本ストロー(飲食用資材)…エンデバー・ユナイテッド
- 2015年 花菱縫製(衣料品)…エンデバー・ユナイテッド
- 2016年 クリーンサアフェイス技術(電子部品)…ポラリス・キャピタル・グループ
- 2019年 明光商会(事務機器)…ジャパン・インダストリアル・ソリューションズ
- 2020年 ケイエムテイ(ペットフード)…個人
- 2020年 三生電子(電子部品)…個人
- 2020年 システックキョーワ(住宅関連部材)…個人
- 2022年 日本カタン(電力関連資材)…エンデバー・ユナイテッド
上記の通り、買収した9社の内、5社はPEファンドから買収しています。PEファンドの投資先を買収する場合の主なメリットとデメリットとして、以下のような点が挙げられます。
- メリット
- 経営管理体制が整えられており、買収後の経営をスムーズに実施できる
- デメリット
- PEファンドが経営管理体制を整え、経営課題の多くを解消しているが故に、改善余地が乏しい
デメリットとして挙げられる「対象会社単体としての改善余地が乏しい」点について、一般的に事業会社がM&Aを実施する場合、「対象会社のマイナス面の改善」だけでなく、「買い手と対象会社によるプラス面の発生」というシナジーを想定します。この点、必ずしも既存事業と同業種のM&Aを実施しているわけではない三井松島ホールディングスにおいては、どのようにM&Aのシナジーを実現しているのでしょうか?
M&Aのグループシナジーの実現
三井松島ホールディングスでは、M&Aの実施後、以下のようなグループシナジーを実現しています。
- 製造業同士でのシナジー実現
第1に、製造業同士でのシナジーの実現です。三井松島グループの製造業5社(日本ストロー、クリーンサアフェイス技術、明光商会、三生電子、システックキョーワ)間で、以下のようなシナジーを実現しています。- 人材交流
- 技術交流
- 部材供給
- 新製品開発
- 生産管理ノウハウ共有
- 本社機能の集中
第2に、本社機能の集中です。買収先各社の本社機能を三井松島ホールディングスに集中することによるコスト削減効果が期待できます。