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2021年8月6日、ジャスダック上場の愛光電気は、MBOによる非公開化を発表しました。当該MBOは、横浜銀行から株式取得資金を調達するデットMBOの一種です。
愛光電気は、1953年創業・1959年設立の神奈川県小田原市所在の電設資材卸売業者です。
本記事では、以下のテーマに沿って、本事例について検討します。なお、本記事は公開情報に基づいて作成しているため、実際の案件の内容とは異なる可能性がある点、ご留意ください。
- 関係者
- 非公開化の背景・目的
- 非公開化後の経営方針
- スキーム
また、MBOによる非公開化の全般的な理解を深めたい方やデットMBOについて詳しく知りたい方は、こちらも記事もご参照ください。
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関係者
本件の関係者は、こちらの通りです。
- 実質的な買い手
愛光電気の近藤社長 - 形式的な買い手
愛光電気の近藤社長が設立した買収用特別目的会社であるAKコーポレーション(近藤社長が100%出資) - 売り手
筆頭株主であり取引先持株会である愛光電気共栄会(株式保有割合19.30%)、その他一部の主要株主(同合計5.96%)及び一般株主。
愛光電気共栄会及び一部の主要株主は、AKコーポレーションとの間で公開買付応募契約を締結しているとのことです。
また実質的な買い手であり、愛光電気の第2位株主である愛光電気の近藤社長は、公開買付への不応募を合意しているとのことです。(詳細は後述のスキームで説明) - 取引対象
愛光電気の株式(100%) - 対象会社
愛光電気 - ファイナンサー
横浜銀行(上限21億円)
非公開化の背景・目的
非公開化の背景・目的について、「外部環境」「対象会社の状況」「非公開化の必要性」の3つの観点から整理していきます。
- 外部環境
- 電設資材卸売業界の見通しの悪化
少子高齢化を背景とした長期的な住宅需要の減少傾向に加え、建設技術者の人手不足や価格競争の激化など、対象会社を取り巻く市場環境の見通しは悪化しています。
- 電設資材卸売業界の見通しの悪化
- 対象会社の状況
- 10ヵ年ビジョンにおける4つの取り組み
対象会社の10ヵ年ビジョンにおいて、以下の4つの取り組みを掲げています。- ①プロフェッショナルとしての高品質サービスによる信頼関係の構築
- ②提案営業の推進・販売チャネルの拡大(拡販・省エネ商材の提案)
- ③新たな販売ネットワークを構築
- ④徹底したローコストオペレーションの推進
- 10ヵ年ビジョンの4つの取り組みにおける課題
10ヵ年ビジョンの4つの取り組みについて、それぞれ次の様な課題を抱えています。- ①プロフェッショナルとしての高品質サービスによる信頼関係の構築
プロフェッショナルたる有資格者の減少に対応した人材確保が急務 - ②提案営業の推進・販売チャネルの拡大(拡販・省エネ商材の提案)
既存取引先の維持及び新規取引先の開拓には、新市場・新商材の探求や時代に合わせた研究活動・設備投資・ノウハウ獲得の柔軟かつ機動的な意思決定が必要 - ③新たな販売ネットワークを構築
今後顧客ニーズに対応していくためには、特定メーカーとのアライアンスだけではなく、対象会社独自のブランドの開発が必要 - ④徹底したローコストオペレーションの推進
新型コロナウイルス感染症により急速にデジタル化が進行する市場環境において、更なる大型投資が不可欠
- ①プロフェッショナルとしての高品質サービスによる信頼関係の構築
- M&Aの展望
10ヵ年ビジョンにおいて、積極的なM&Aによる事業の多角化を展望していたものの、これまでのところM&Aの実施には至っていません。
- 10ヵ年ビジョンにおける4つの取り組み
- 非公開化の必要性
- 10ヵ年ビジョンの各課題を解消するための施策の推進
上記の各種課題を解消するためには、相応の時間と先行投資が必要と見込まれるものの、それらが短期的な収益の悪化をもたらすものと考えています。 - 上場維持コストの増加
コーポレートガバナンスコードの改訂や資本市場に対する規制の強化などにより、上場維持コストは増加傾向にあります。 - 会社としてのブランド・信用力の確立
電設資材卸売業界における一定のブランドや取引先に対する信用力は確立しており、上場を維持する必要性は低下しています。
- 10ヵ年ビジョンの各課題を解消するための施策の推進
非公開化後の経営方針
また、非公開化後の経営方針について、「全般」「売上高増加」「コスト削減」の3つに整理します。
- 全般
- M&Aによる事業の多角化
積極的なM&Aにより事業の多角化を図り、サービスラインナップの拡充やサービス品質の向上を目指します。 - 機動的な人事戦略
セールスエンジニアを始めとする専門人材の確保と既存従業員のスキルアップを図ります。 - DXへの大型投資
DX(デジタルトランスフォーメーション)への大型投資により、社内外の効率的な事業運営を促進し、時代の趨勢に合わせた経営体制の構築を進めます。
- M&Aによる事業の多角化
- 売上高増加
- 決断・行動のスピードアップによる新規顧客の獲得
対象会社における決断と行動のスピードを上げ、新市場・新製品に関する知見を獲得することで、新規得意先の開拓の一層の促進を図ります。 - 独自製品・ブランドの確立
大規模な投資や他社との協業により、対象会社独自の製品・ブランドの確立を図ります。
- 決断・行動のスピードアップによる新規顧客の獲得
- コスト削減
- (特になし)
スキーム
本件のスキームは、以下の7つのステップから構成されています。
- ステップ1. 買収用目的会社の設立
対象会社の近藤社長は、公開買付者となる買収用特別目的会社であるAKコーポレーションを設立します。 - ステップ2. 応募契約・不応募合意
公開買付者であるAKコーポレーションは、対象会社の筆頭株主である愛光電気共栄会、及び一部の主要株主と公開買付応募契約を締結します。
また、第2位株主であり実質的な買い手である近藤社長と不応募合意を結びます。 - ステップ3. 株式公開買付(TOB)
公開買付者であるAKコーポレーションは、一般株主に対し、株式公開買付(TOB)を実施します。
公開買付価格は1株2,360円(前日終値に27.22%のプレミアムを加えた価格)であり、買付総額は約18億円です。 - ステップ4. 買収資金調達及び株式取得
TOBの成立に伴い、公開買付者であるAKコーポレーションは、ファイナンサーである横浜銀行からの借入により上限21億円の資金調達を行い、株式を取得します。 - ステップ5. スクイーズアウト
TOBにより、近藤社長及びAKコーポレーションの合計で3分の2以上の株式を取得した場合、公開買付に応じなかった少数株主に対しスクイーズアウトを実施します。
スクイーズアウトにより、近藤社長及びAKコーポレーションの2者が株主となる予定とのことです。
なお、本事例では、株式併合によりスクイーズアウトが実現される予定とのことです。 - ステップ6. 株式交換
スクイーズアウト実施後、AKコーポレーションを完全親会社、対象会社を完全子会社とする株式交換を行い、AKコーポレーションが対象会社を完全子会社化するとのことです。 - ステップ7. 非公開化
以上の手続を経て、対象会社の非公開化が実現されます。なお、実務上はスクイーズアウトや株式交換と非公開化のタイミングが前後する可能性がある点、ご留意ください。
まとめ
以上、今回は愛光電気のデットMBOによる非公開化について取り上げました。
また、MBOによる非公開化の全般的な理解を深めたい方やデットMBOについて詳しく知りたい方は、こちらも記事もご参照ください。
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