非上場化でMBOを利用する場合の3つのスキーム

非上場化でMBOを利用する場合の3つのスキーム

非上場化でMBOを利用する場合の3つのスキーム

MBOとは、マネジメントバイアウト(Management Buyout)の略称で、経営陣による企業買収・事業買収を意味します。

そして、主に次の3つの場面で活用されています。

  • 事業承継
  • カーブアウト
  • 非公開化

その中で、本記事では非公開化に注目します。

  • 非公開化においてMBOが活用されるにあたり、各当事者にはどのようなニーズがあるのか
  • 非公開化におけるMBOのスキームは、資金調達別にどのようになるのか

ということについて整理していきたいと思います。

事業承継カーブアウトについては、リンク先の記事をご覧ください。

なお、本記事は入門的な内容になっていますので、より詳しくMBOの全体像を知りたい方は、【図解】MBOとは?活用場面やスキーム、メリット・デメリットなどをご覧ください。

また、本記事の内容はこちらの動画でもご覧いただけます。

《執筆者》

PEファンド・M&Aアドバイザリーの実務経験があるSOGOTCHA(ソガッチャ)スタッフが執筆しました。

非公開化における当事者とそれぞれのニーズ

非公開化におけるMBOの活用

非公開化におけるMBOは、上場会社において活用されます。

上場会社の経営陣が、長期的視点での経営の実施や上場コストの削減を目的として、非上場化(非公開化)を図るときに選択されるのが、MBOによる非公開化です。

非公開化のMBOの当事者は、以下の通りです。

  • 売り手:一般株主
  • 買い手:上場会社の経営陣
  • 取引対象:上場会社の株式

また、各当事者の主なニーズにつき整理すると、以下の通りです。

  • 売り手(一般株主)
    • 投資目的で保有している者が大半なので、少しでも高く売りたい
  • 買い手(上場会社の経営陣)
    • 長期的な視点での経営:一般株主からの短期的な業績改善(ひいては株価上昇)のプレッシャーから解放された、より長期的な視点での経営の実施
    • 意思決定の迅速化:所有と経営の一体化による意思決定スピードの改善
    • 上場維持コストの削減:決算書や開示資料の作成・準備などに代表される上場維持に関わるコストの削減

基本的に、非公開化のMBOは買い手(上場会社の経営陣)のニーズを起点として実施されます。

非公開化におけるMBOのスキーム

非公開化におけるMBOのスキーム

非公開化のMBOの具体的な取引スキームにつき、検討していきます。

基本的なスキームは、以下の通りです。

  1. 株式公開買付(TOB)の実施
    買い手(上場会社の経営陣)は、株式市場で一般株主に対し、株式公開買付(TOB)を実施する
  2. 一般株主のTOBへの応募
    TOBに応じる一般株主は、TOBに応募する
  3. TOBの成立
    一般株主から一定数の株式の応募があった場合、TOBが成立する
  4. 一般株主からの株式の譲渡
    TOB成立後、一般株主は買い手に対し、株式を譲渡する
  5. 買い手からの対価の支払
    買い手(上場会社の経営陣)は、一般株主に対し、株式の対価を支払う
  6. 買い手による少数株主排除(スクイーズアウト)の実施
    買い手(上場会社の経営陣)は、TOBに応じず未だ株式を保有している少数株主に対し、少数株主排除(スクイーズアウト)の手続を通じ、株式を強制的に取得する
  7. 買い手による上場会社の非公開化(非上場化)
    買い手(上場会社の経営陣)は、上場会社を非公開化(非上場化)する

この基本型をベースに、買収資金の調達原資に応じて、

  • 自己資金型MBO
  • ローン型MBO
  • ファンドMBO

の3類型が組み合わされます。

この3類型については【図解】MBO(マネジメントバイアウト)の資金調達方法別のメリットとデメリットを比較!で詳しく解説しています。

以下、各類型のスキームについて検討していきましょう。

自己資金型MBOによる非公開化

(1)自己資金型MBOによる「非公開化」

まず、会社の経営陣の自己資金で行う自己資金型MBOのスキームについてです。

自己資金型MBOの場合、買い手である経営陣の自己資金のみを原資として買収を実施するため、通常、取引スキームは上記の基本型と同様になります。

  1. 株式公開買付(TOB)の実施
    買い手(上場会社の経営陣)は、株式市場で一般株主に対し、株式公開買付(TOB)を実施する
  2. 一般株主のTOBへの応募
    TOBに応じる一般株主は、TOBに応募する
  3. TOBの成立
    一般株主から一定数の株式の応募があった場合、TOBが成立する
  4. 一般株主からの株式の譲渡
    TOB成立後、一般株主は買い手に対し、株式を譲渡する
  5. 買い手からの対価の支払
    買い手(上場会社の経営陣)は、一般株主に対し、株式の対価を支払う
  6. 買い手による少数株主排除(スクイーズアウト)の実施
    買い手(上場会社の経営陣)は、TOBに応じず未だ株式を保有している少数株主に対し、少数株主排除(スクイーズアウト)の手続を通じ、株式を強制的に取得する
  7. 買い手による上場会社の非公開化(非上場化)
    買い手(上場会社の経営陣)は、上場会社を非公開化(非上場化)する

但し、上場株式を買い集めようとすると、通常は数十億から数百億円(中には数千億円規模)の資金が必要となるため、経営陣の自己資金のみでMBOを実施することは現実的には厳しい面があります。

このため、金融機関からのローンやファンドからの出資といった外部資金を調達し、非公開化を実施するのが一般的です。

ローン型MBOによる非公開化

(2)ローン型MBOによる「非公開化」

次に、ローン型MBOによる非公開化のスキームにつき、検討します。

ローン型MBOの場合、経営陣は買収資金の不足分を、金融機関からローンを調達することで充足します。

すなわち、買収原資は、経営陣の自己資金と金融機関からのローンから成ります。

金融機関からのローンの調達にあたり、買収用特別目的会社(SPC)の設立やSPCと会社の合併などの実務手続が必要となるため、上記の自己資金型MBOに比べ、ややスキームが複雑になります。

SPC設立についての詳細は【図解】マネジメントバイアウト(MBO)で特別目的会社(SPC)を設立する2つのメリットにて解説していますが、ローン型MBOによる非公開化のスキームの大枠は、以下の通りです。

  1. 買い手による買収用特別目的会社(SPC)の設立・出資
    買い手(上場会社の経営陣)は、MBOの実施に先立ち、金融機関からのローンの調達主体として、買収用特別目的会社(SPC)を設立する。また、上場会社の経営陣は、SPCに対し自己資金を出資し、買収資金の一部に充てる
  2. 株式公開買付(TOB)の実施
    買い手(上場会社の経営陣)は、SPCを通じて、株式市場で一般株主に対し、株式公開買付(TOB)を実施する
  3. 一般株主のTOBへの応募
    TOBに応じる一般株主は、TOBに応募する
  4. TOBの成立
    一般株主から一定数の株式の応募があった場合、TOBが成立する
  5. SPCによる金融機関からのローンの調達
    TBO成立後、SPCは、金融機関からローンを調達し、株式の取得のための買収資金を確保する
  6. 一般株主からの株式の譲渡
    一般株主は買い手に対し、株式を譲渡する
  7. SPCからの対価の支払
    SPCは、一般株主に対し、株式の対価を支払う
  8. SPCによる少数株主排除(スクイーズアウト)の実施
    SPCは、TOBに応じず未だ株式を保有している少数株主に対し、少数株主排除(スクイーズアウト)の手続を通じ、株式を強制的に取得する
  9. SPCによる上場会社の非公開化(非上場化)
    SPCは、上場会社を非公開化(非上場化)する
  10. SPCと会社の合併
    非公開化後、通常金融機関からの要請に基づき、SPCと会社は合併し新会社となる

以上が、ローン型MBOによる非公開化のステップです。

近時、上場会社の経営陣によるローン型MBOの非公開化案件が増加しています。

金融機関の積極的な融資姿勢や上場メリットの見直しなどが、その背景と思われます。

ファンドMBOによる非上場化

(3)ファンドMBOによる「非上場化」

続いて、ファンドMBOによる非公開化のスキームにつき、検討します。

ファンドMBOは、経営陣の自己資金とファンドの出資を買収資金として、MBOを実施します。

ファンドMBOの場合、ファンドの投資効率改善などの観点から、金融機関からのローン調達を合わせるケースも多いですが、以下の取引スキームについては、ローン調達は利用しない前提で検討します。

ファンドMBOのスキームにおいても、ローン型MBO同様、買収用特別目的会社(SPC)の設立や会社との合併が生じるため、スキームが複雑化します。

ファンドMBOによる非公開化のスキームの大枠は、以下の通りです。

  1. 買い手による買収用特別目的会社(SPC)の設立・出資
    買い手(上場会社の経営陣)は、MBOの実施に先立ち、ファンドからの出資の調達主体として、買収用特別目的会社(SPC)を設立する。また、上場会社の経営陣は、買収資金の一部として、自己資金についてもSPCに出資する
  2. 株式公開買付(TOB)の実施
    買い手(上場会社の経営陣)は、SPCを通じて、株式市場で一般株主に対し、株式公開買付(TOB)を実施する
  3. 一般株主のTOBへの応募
    TOBに応じる一般株主は、TOBに応募する
  4. TOBの成立
    一般株主から一定数の株式の応募があった場合、TOBが成立する
  5. SPCによるファンドからの出資の調達
    TBO成立後、SPCは株式取得のための資金につき、ファンドからの出資により調達する
  6. 一般株主からの株式の譲渡
    一般株主は買い手に対し、株式を譲渡する
  7. SPCからの対価の支払
    SPCは、一般株主に対し、株式の対価を支払う
  8. SPCによる少数株主排除(スクイーズアウト)の実施
    SPCは、TOBに応じず未だ株式を保有している少数株主に対し、少数株主排除(スクイーズアウト)の手続を通じ、株式を強制的に取得する
  9. SPCによる上場会社の非公開化(非上場化)
    SPCは、上場会社を非公開化(非上場化)する
  10. SPCと会社の合併
    非公開化後、通常ファンドからの要請に基づき、SPCと会社は合併し新会社となる

以上が、ファンドMBOの場合の非公開化のステップです。

多額の買収資金が必要となる非公開化のMBOの場合、ファンドMBOが最も一般的です。

最近はローン型MBOによる非公開化も増えつつありますが、大半は上場会社の経営陣とファンドが共同で実施するファンドMBOが中心です。

ファンドMBOの場合、買収資金の大半はファンドが拠出することになるので、一般的にはファンドが議決権の多数を保有し、経営陣は少数株主に留まります。

このため、経営陣の任免権は多数株主であるファンドが実質的に有することになるので、経営陣は非公開に先立ち、ファンドのメンバーと今後の事業計画や協働体制につき、きちんと整理しておく必要があります。   

まとめ

以上が、非公開化のシーンでMBOを活用する場合のスキームです。

なお、本記事の内容はこちらの動画でもご覧いただけます。

また、SOGOTCHA(ソガッチャ)ではオンラインでM&Aの相談を受け付けています。

PEファンド・M&Aアドバイザリーの実務経験があるSOGOTCHA(ソガッチャ)スタッフがサポートしますので、ぜひお気軽にご相談ください。

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