ベインキャピタル・JIP・JISによる日立金属の買収

ベインキャピタル・JIP・JISによる日立金属の買収

ベインキャピタル・JIP・JISによる日立金属の買収

2021年4月28日(水)、日立金属から「株式会社BCJ-52による当社株式に対する公開買付けの開始予定に係る賛同の意見表明及び応募推奨に関するお知らせ」というリリースが出されました。

同日、ベインキャピタルからも「日立金属株式会社による適時開示に係わるベインキャピタルのコメント」というリリースが出されています。

また、ジャパン・インダストリアル・ソリューションズからも「日立金属株式会社の普通株式取得を目的とした公開買付けの開始予定について」というリリースが出されています。

本件は、ベインキャピタル、日本産業パートナーズ、ジャパン・インダストリアル・ソリューションズの3ファンドが共同で日立金属を買収するTOB案件です。

ベインキャピタルは、米国を本拠地とする大手のPEファンド運営会社です。2006年の日本進出以降、約20件の投資実績を有しています。

日本産業パートナーズ(JIP)は、当初みずほグループのファンド運営会社でしたが、現在は独立系のファンド運営会社となっています。カーブアウト案件を中心とした大型の投資実績があります。

ジャパン・インダストリアル・ソリューションズ(JIS)は、日本政策投資銀行・三菱UFJ銀行・三井住友銀行・みずほ銀行が主体となって2010年に設立されました。優先株式などの種類株式での投資が中心ですが、2号ファンド以降は普通株式での投資も増加しています。

なお、PEファンドそのものについての理解を深めたい方は、こちらの資料や動画もご参照ください。

▽関連資料:ファンドガイドブック

▽関連動画

一方、日立金属は、1956年に日立製作所の完全子会社として設立された会社で、「金属材料」「機能部材」の2つの事業で構成されています。

それでは、次の各テーマに沿って、本投資事例の概要につき検討していきましょう。

  • 関係者
  • 背景・目的
  • スキーム

なお、以下の内容は公開情報に基づくものであり、一部推測に基づいて作成している部分もあるため、実際のケースとは異なる可能性もある点、ご了承ください。

関係者

ベインキャピタル・JIP・JISによる日立金属の買収 の関係者

まず、関係者についてです。

本件における主な関係者は、次の通りです。

  • 実質的な買い手
    ベインキャピタル、日本産業パートナーズ、ジャパン・インダストリアル・ソリューションズの3社(正確には各社の運営ファンド)
  • 形式的な買い手
    ベインキャピタル(正確には同社の運営ファンド)が設立した買収用特別目的会社(SPC)であるBCJ-52。
    なお、正確にはBCJ-52の親会社としてBCJ-51というSPCが存在しますが、以下のスキーム検討における重要性は低いと考えられるため、この図では省略しています。
  • 売り手
    日立製作所及び一般株主
  • 取引対象
    親会社である日立製作所が保有する株式を除く、日立金属の株式
  • 対象会社
    日立金属
  • ファイナンサー
    三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、三井住友信託銀行、新生銀行、あおぞら銀行

以上が、本件の主な関係者です。

非公開化の背景・目的

ベインキャピタル・JIP・JISによる日立金属の買収 の背景・目的

続いて、本件取引の背景・目的についてです。

ここでは、「外部環境」「対象会社の状況」「非公開化の必要性」「PEファンドとの協働の必要性」の4点から検討していきます。

外部環境

  • 自動車関連分野
    • 従来の内燃機関(エンジン)から電動化への変革期
    • 中国・新興国メーカーの台頭
  • 産業インフラ関連分野
    • 航空関連材料の特定顧客・製品への依存
    • 配管機器におけるガスの自由化に伴う競争激化
    • 電線における中国の鉄道投資の減少
  • エレクトロニクス関連分野
    • 顧客ニーズや技術が急速に変化する環境下
  • 新型コロナウイルス感染症の影響
    • グローバルの自動車販売台数の減少により、多くの主要製品での需要減少
    • 航空機材の需要減少により、航空機関連材料需要が減少

対象会社の状況

  • 2021年度中期経営計画の推進
    • 高成長・高収益分野へのリソース集中
    • 組織改革によるシナジー最大化
    • フロント強化、顧客との協創
    • 大型設備投資のフル戦力化
    • 構造改革、経営基盤強化施策の実行
  • 需要環境の厳しさが増したこと等により、収益性が悪化

非公開化の必要性

  • 意思決定のスピードアップ
  • 投資資金の獲得
  • 外部知見の導入

PEファンドとの協働の必要性

  • プロ人材による支援
  • 関連業界での豊富な投資経験に基づく知見の提供
  • 投資先各企業の紹介等

スキーム

ベインキャピタル・JIP・JISによる日立金属の買収のスキーム

続いて、本件取引のスキームについてです。

本件取引のスキームは、次の8つのステップから構成されます。

  • 現状
    日立金属の株式の約53%を日立製作所、約47%を一般株主が保有しています。
  • ステップ1. 買収用特別目的会社(SPC)の設立
    実質的な買い手の1社であるベインキャピタルは、買収用特別目的会社(SPC)であり、公開買付者となるBCJ-52を設立します。
  • ステップ2. 日立製作所との不応募契約の締結
    SPCは、対象会社株式の53.38%を保有する主要株主である日立製作所との間で、「TOBには応募せず、ステップ7での自己株式取得に応じる」旨の公開買付不応募契約を締結します。
  • ステップ3. 株式公開買付(TOB)
    公開買付者は、一般株主に対し、株式公開買付(TOB)を実施します。
    公開買付価格は1株2,181円(前日終値に15.76%のプレミアムを加えた価格)で、買付総額は約8,000億円です。
    公開買付後に、公開買付者と日立製作所を合わせた持分が3分の2以上になることを目指します。
  • ステップ4. 買収資金の調達と株式の取得
    TOBが成立した場合、公開買付者であるBCJ-52は、ベインキャピタル・JIP・JISの各運営ファンドからエクイティ、ファイナンサーである三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、三井住友信託銀行、新生銀行、あおぞら銀行から買収ローンを調達します。
    当該資金を原資として、売り手から株式を取得します。
    なお、TOBが成立しなかった場合は、ステップ4以降のプロセスは実施されません。
  • ステップ5. スクイーズアウト
    TOB成立後、公開買付に応じなかった少数株主に対しスクイーズアウトを実施します。本事例では、株式併合によりスクイーズアウトが予定されています。
  • ステップ6. 非公開化
    以上の取引の結果、対象会社の非公開化が実現されます。結果として、株主は日立製作所とBCJ-52の2者となります。
  • ステップ7. 日立製作所からの自己株式取得
    対象会社は、親会社である日立製作所から自己株式を取得します。それに先立ち、分配可能額の確保のための減資と、自己株式取得対価の確保のための公開買付者であるBCJ-52からの資金供給を実施します。
    なお、日立製作所が本スキームで自己株式取得を利用するのは、日立製作所がみなし配当による益金不算入の税務メリットを享受できると見込まれるためです。みなし配当を利用することで、公開買付における一般株主への配分を多くし、公開買付価格の最大化と株主間の公平性を両立させることを目的としているとのことです。

    なお、みなし配当についてより詳しく知りたい方は、以下の記事もご参照ください。

    ▽関連記事:みなし配当とは|税務メリットとM&A・事業承継での活用
  • ステップ8. 取引完了
    取引完了後、公開買付者であるBCJ-52は、対象会社の発行済株式総数の全てを保有する予定です。

以上が、本件スキームの概要です。

なお、上記スキームのステップ4で言及した買収ローンであるLBOローン(LBOファイナンス)について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご参照ください。

▽関連記事:LBOとLBOファイナンス|それぞれの特徴を解説

まとめ

以上、今回はベインキャピタル・JIP・JISによる日立金属への投資案件をピックアップしました。

SOGOTCHA(ソガッチャ)では、PEファンドが関わるM&A事例をピックアップしていますので、ぜひご覧ください。

なお、日本で活動するバイアウトファンド・メザニンファンドについて具体的に知りたい方は、こちらの資料をご参照ください。

▽関連資料:ファンドガイドブック

本サイトで取り上げているM&A事例をご覧頂くと分かる通り、PEファンドは頻繁にM&Aを行っています。このため、あなたも急にPEファンドと関わることになるかもしれません。

例えば、

  • PEファンドの投資先について、自社に買収検討の打診があった。
  • 自社のノンコア部門について、PEファンドから買収検討の打診があった。
  • 自社のオーナーが、PEファンドへの会社の売却を検討しているらしい。
  • 今度、PEファンドのExit案件のアドバイザリーをすることになった。
  • 銀行から、成長資金の調達先としてPEファンドの紹介を受けることになった。

そのような場面で、もしご自身の横に立って一緒に交渉や検討を進めてくれるパートナーが必要と思われたなら、弊社までお問い合わせください。

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