ミネベアミツミのM&A戦略|多角化によるリスク分散経営

ミネベアミツミのM&A戦略|多角化によるリスク分散経営

ミネベアミツミのM&A戦略|多角化によるリスク分散経営
ミネベアミツミのM&A戦略|多角化によるリスク分散経営

ミネベアミツミは、ミニチュアボールベアリングを祖業とする部品メーカーですが、多角化によるリスク分散という経営方針の下、M&Aを通じて事業領域を拡大してきました。

現在は、8本槍と呼ばれるコア事業が同社の経営を支えていますが、今後も事業領域の拡大及び既存事業の強化のため、M&Aが活用される見通しです。

以下では、ミネベアミツミの経営戦略とM&Aについて整理します。

また、本記事の概要は、こちらの動画でもご覧頂けます。

ミネベアミツミはどんな会社か?

ミネベアミツミのM&A戦略|2000年からの売上高と累積M&A件数

上図は、ミネベアミツミの特徴を表したグラフです。同社は、1970年代から積極的にM&Aを実施し、2022年7月末時点で53件のM&Aを実施しています(2022年7月29日公表の2件は進行中)。

特に、2010年代以降は、ミツミ電機、ユーシン、エイブリックなどの大型のM&Aにより、事業規模を大きく拡大しています。

ミネベアミツミの概要

ベアリングメーカーとして創業

1951年、東京都板橋区にて、日本初のミニチュアベアリング専業メーカーとして、ミネベアミツミの前身である日本ミネチュアベアリング株式会社は設立されました。1963年には、全世界のマザー工場となる軽井沢工場の操業を開始し、「超精密機械加工技術」「大量生産」を武器に、競争力を磨いていきました。

モーター事業への進出

1973年、モーター事業に進出します。同事業への進出は、将来的にベアリング需要が無くなるかもしれないとの危機意識から実施されました。モーター事業は、祖業であるベアリングと並んで、現在もミネベアミツミのコア事業のひとつとして存続しています。

M&Aによる多角化

1970年代以降、時代を先取り、当時は一般的ではなかったM&Aを国内外で積極的に実施します。1971年には米国企業の工場を買収し、米国での生産活動を開始。また、1974年には新興通信工業を買収し、電子機器分野に進出します。また、化粧品や着物の訪問販売、養豚など、製造業以外へも事業領域を拡大していきました。

なお、1981年、社名を日本ミネチュアベアリング株式会社からミネベア株式会社に変更しています。

製造業への回帰

1990年代以降、多角化のマイナス面での影響が増えてきたため、事業の選択と集中が進められました。製造業と関連が薄い事業の整理を進める一方、ベアリングや電子機器などのコア事業に経営資源を集中し、製造業への回帰が図られました。

「相合」精密部品メーカー

ミネベアミツミは、自社を総合精密部品メーカーならぬ「相合」精密部品メーカーと規定し、2010年以降、売上高1兆円企業を目指し、大型のM&Aを積極化させます。なお、「相合」とは、自身の有する技術や事業を「相い合わせる」ことで、新たな製品などを生み出す同社の強みを表しています。

  • 2017年 ミツミ電機
    2015年、旧ミネベアは、ミツミ電機との経営統合を発表しました。2017年1月に株式交換が実施され、旧ミネベアがミツミ電機を完全子会社化し、社名をミネベアミツミに変更しています。両社共にスマホ向けなどの電子部品を製造していましたが、旧ミネベアはベアリングやモーター、ミツミ電機はセンサーやコネクタ/スイッチなどが中心であり、補完関係にあるM&Aと言えます。
  • 2019年 ユーシン
    2018年、ミネベアミツミは、東証一部上場の自動車部品メーカーであるユーシンを株式公開買付(TOB)により買収しました。ユーシンは、2013年にフランスの自動車部品メーカーヴァレオからアクセスメカニズム部門(キーセットやドアハンドルなど)を買収していましたが、その後の経営が上手くいかず、業績不芳に陥っていました。ミネベアミツミにとって、ユーシンの買収は、自動車向け部品事業の強化を目的とするものと言えます。
  • 2020年 エイブリック
    2020年、日本政策投資銀行(DBJ)及びセイコーインスツルからアナログ半導体メーカーのエイブリックを買収しました。エイブリックの買収は、ミツミ電機が有していた半導体事業を補完・強化することを目的としたものです。
  • 2022年 本多通信工業・住鉱テック
    2022年7月、ミネベアミツミは、東証プライム上場の本多通信工業の株式公開買付(TOB)、及び住友金属鉱山子会社の住鉱テックの買収を公表しました。これらは、ミツミ電機が有していたコネクタ事業の強化を目的としたものです。

以上のようなM&Aによる事業拡大を通じ、2022年3月期に売上高1兆円を達成しています(2022年3月期売上高 1兆1,241億円)。

ミネベアミツミの事業内容

ミネベアミツミのM&A戦略|8本槍と基となった企業

ミネベアミツミでは、以下の8つの事業を「8本槍」というコア事業と位置付けています。

8本槍主な企業
ベアリングミネベア
モーターミネベア・ミツミ
センサーミネベア・ミツミ
コネクタ/スイッチミツミ
電源ミツミ
無線/通信/ソフトウェアミツミ
アナログ半導体ミツミ・エイブリック
アクセス(自動車)ユーシン

事業セグメント

ミネベアミツミのM&A戦略|売上高構成比・セグメント利益

開示されている事業セグメントは、上図の通りです。

  • 2022年3月期売上高(外部売上高)(除くその他954百万円)
    • 機械加工品(ベアリング等) 177,470百万円
    • 電子機器(モーター等) 371,023百万円
    • ミツミ事業(含むエイブリック) 429,116百万円
    • ユーシン事業 145,577百万円
  • 2022年3月期セグメント利益(除くその他▲1,429百万円)
    • 機械加工品(ベアリング等) 45,717百万円
    • 電子機器(モーター等) 21,561百万円
    • ミツミ事業(含むエイブリック) 41,846百万円
    • ユーシン事業 732百万円

ニッチトップ製品

ミネベアミツミのM&A戦略|4つのニッチトップ製品

ミネベアミツミは、以下の製品で世界シェアNo.1を獲得しています。

  • ミニチュアボールベアリング(外形22mm以下) 60%
  • リチウムイオン電池用保護IC(1セル) 80%
  • ハードディスク用ピボットアッセンブリー 80%
  • ステッピングモーター 40%

ミネベアミツミの経営戦略とM&A

ミネベアミツミのM&A戦略|全社方針と事業領域の拡大+既存事業の強化

ミネベアミツミのM&Aにおいて、根底にあるのが経営戦略としての「サステナビリティとリスク分散」です。同社は「経営の本質はサステナビリティ」という信念の下、継続的な成長と持続可能性を追求すべく、多角的なリスク分散経営を進めてきました。すなわち、外部環境の変化による会社全体への影響を低減すべく、事業領域を多角化し、事業規模を拡大してきました。それを実現してきたのが、同社のM&A戦略です。

同社のM&Aは、大きく「事業領域の拡大」と「既存事業の強化」の2つの方向で進められてきたと言えます。

事業領域の拡大

ミネベアミツミが旧ミネベア時代から持っていたベアリング、モーター、センサーという3本槍に、ミツミ電機の買収を通じて、コネクタ/スイッチ、電源、無線/通信/ソフトウェア、アナログ半導体の4本が加わり、7本槍となりました。その後、ユーシンの買収を通じて、アクセス(自動車)へも事業領域を拡大し、現在の8本槍を実現しています。

既存事業の強化

ミネベアミツミは、ベアリングやモーターなどの既存事業に加え、M&Aで拡大した新規コア事業についてもロールアップ型のM&Aを行うことで、コア事業をより強固なものとしています。

  • ベアリング…独myonic Holding(2009)、独CEROBEAR(2013)、米C&A Tool Engineering(2017)、仏Mach Aero Bretigny Rectification(2017)、独Mast Kunststoffe、Mast Verwaltungsgesellschaft(2019)
  • モーター…FDKステッピングモータ事業(2009)、パナソニックの情報モータ事業(2010)、第一精密産業(2010)、韓国モアテック(2012)
  • センサー…独Sartorius Mechatronics T&H(2015)、仏A à Pesage及びCentre Pesage(2016)
  • アナログ半導体…エイブリック(2020)、オムロンの半導体工場・MEMS事業(2021)
  • コネクタ/スイッチ…本多通信工業、住鉱テック(2022)

今後のM&Aの方針

ミネベアミツミのM&A戦略|M&Aの方針

ミネベアミツミは、2019年に「2029年3月期に売上高2.5兆円、営業利益2,500億円」という目標を掲げ、当時約9,000億円の売上高に対し「自律成長で+8,000億円、M&Aで+5,000〜8,000億円」という成長方針を示しており、今後も「多角的なリスク分散経営」という大方針の下、事業領域の拡大及び既存事業の強化の両面でM&Aが活用されると推察されます。

M&Aのターゲット

ミネベアミツミのM&A戦略|M&Aのターゲット

ミネベアミツミは、M&Aにより事業領域を多角化してきましたが、やみくもに買収を行ってきたわけではなく、以下のような軸に沿ったM&A戦略を実施してきており、今後もこのような方針でM&Aを継続していくものと考えられます。

  • 部品の百貨店
    第1に、部品の百貨店です。ミネベアミツミは、自社を総合精密部品メーカーならぬ「相合」精密部品メーカーと規定しており、電機・自動車・航空などのあらゆる分野をカバーする部品の百貨店を目指しています。このため、今後も「部品」が事業領域の拡大の軸となるものと考えられます。
  • 規模×永続×強み×ニッチ
    第2に、規模×永続×強み×ニッチです。同社は、参入する事業領域について「規模が大きいこと」「市場が無くならないこと」「強みを発揮できること」「ニッチであること」を掲げています。このため「部品」分野であっても、その市場が「規模×永続×強み×ニッチ」という特性を有しない限り、買収対象とはなり得ません。
  • 「相合」シナジー
    第3に、「相合」シナジーです。同社は、自身の有する技術や事業を「相い合わせる」ことでシナジーを生み出す力を強みのひとつとしています。このため、新規事業領域への拡大に際しては、既存事業との「相合」によるシナジーの有無が判断基準のひとつとなるものと推察されます。

以上の3点を踏まえると、同社のM&Aは、「部品」を事業領域とし、その市場が「規模×永続×強み×ニッチ」の基準を満たし、「相合」によるシナジーが見込める先がターゲットとなると考えられます。

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