目次
本記事では、初めてのM&Aを検討されている方向けに、M&Aの一連の流れについて順を追って紹介します。
少しでも参考になれば幸いです。
《執筆者》
PEファンド・M&Aアドバイザリーの実務経験があるSOGOTCHA(ソガッチャ)スタッフが執筆しました。
M&Aの流れ
まずは、M&Aの流れの全体像を把握しておきましょう。
M&Aの取引の流れのことをディールフローと言うこともありますが、M&Aの準備段階から取引の実施(クロージング)までの全体像を区分すると、以下の6つのプロセスに整理できます。
- 準備
- 打診/初期検討
- 基本合意
- 買収監査
- 最終契約
- 取引実行
なお、準備から取引実行までに要する期間は、その取引規模や当事者の都合にもよりますが、およそ半年から1年程度です。
以下、各ステップの詳細について順に確認していきましょう。
1. 準備
まず、M&Aに先立ち、準備が必要です。
売り手買い手それぞれに準備すべきことが異なりますので、別記事にまとめました。
まずはこちらのリンクから、ご自身の立場にあった方をご覧ください。
▽関連記事:【図解】売り手がM&Aを始める前に必ずやるべき5つのこと【徹底解説】
▽関連記事:【図解】買い手がM&Aを始める前に必ずやるべき4つのこと【徹底解説】
2. 打診/初期検討
続いて、打診/初期検討フェーズです。
打診は売り手のアクション、初期検討は買い手のアクションです。
売り手がいくつかの買い手候補に打診し、打診を受けた買い手候補は資料や面談などの限られた情報をもとに、次のステップに進めるかどうか検討します。
具体的には、以下の流れで実施されます。なお、このフェーズの初期では会社名を開示せずにプロセスが進行するため、売り手と売り手側のM&A専門家を明示的に分けて記載しています。
- 売り手と売り手側のM&A専門家が、買い手候補を選定する
- 売り手側のM&A専門家が、買い手候補にティーザーを配布する
- 興味を持った買い手候補があれば、売り手側のM&A専門家(もしくは売り手)と買い手候補先で秘密保持契約書を締結する
- 売り手側のM&A専門家は、売り手の会社名を開示し、決算情報などを記載した企業概要書(インフォメーションメモランダム:IM)を買い手候補に配布する
- 売り手と買い手候補先の希望があれば、両者の面談を実施する
- 本格検討を希望する買い手候補は、意向表明書を売り手に提示する
- 売り手と売り手側のM&A専門家は、受領した意向表明書を検討する
- 上記7の検討を経て、本格的に検討を進める場合は後述の基本合意書を締結する
3. 基本合意
上記の通り、売り手と買い手候補の双方がM&Aを本格的に検討することに同意した場合は、基本合意書を締結します。
次のステップである買収監査においては双方に相当の負担がかかるため、予め両者の意思を書面化しておくものです。
売り手と買い手候補の双方が捺印することになるため、両者共に内容を検討・確認し、必要であればコメント・修正するドキュメンテーションの作業が生じます。
すなわち、基本合意のフェーズは次の2つのステップで構成されます。
- 基本合意書の作成
- 基本合意書の締結
なお、主な記載事項は以下の通りです。
- M&Aスキーム
- 取引対象
- 取引価格
- スケジュール
- 買収監査(DD)への協力
- 独占交渉権(Exclusivity)の付与(独占交渉期間の設定)
- 秘密保持
なお、各項目はあくまで現時点での想定事項であり、買収監査への協力や独占交渉権の付与、秘密保持などの条項を除き、法的拘束力を有しないのが一般的です。
4. 買収監査
買収監査は、買い手から売り手や買収対象となる会社に対して実施される、買収前の本格的な調査のことを意味します。
デュー・ディリジェンス、デューデリ、DD(ディーディー)などと呼ばれることもあります。
買収監査は、以下の8つのステップで構成されます。
- 買い手は、DD専門家を選定する
- 買い手は、依頼資料・Q&Aリストを作成し、売り手に提出する
- 売り手は、買い手に依頼された資料・Q&Aリストに基づいて資料や回答を準備し、提出する
- 買い手は、売り手から提出された資料や回答の内容を検討する
- 買い手は、対象会社の経営陣との面談(マネジメントインタビュー)を実施する
- 買い手は、経営陣面談の結果も踏まえ、追加のQ&Aを提出する
- 売り手は、追加で提出されたQ&Aへ回答する
- 買い手側のM&A専門家は、DD報告書を作成する
買収監査は買い手が実施するものですが、上記の通り売り手にも相当の労力がかかりますので、両者の協力が不可欠です。
なお、各ステップの具体的な進め方については、【図解】デューディリジェンスの進め方【8つのステップ】で詳しく紹介しています。
5. 最終契約
デュー・ディリジェンスの結果を踏まえ、売り手と買い手との間で合意できれば、最終契約書を締結します。
最終契約書とは、例えば株式譲渡なら株式譲渡契約書、事業譲渡なら事業譲渡契約書などがそれに該当します。
ただし、そのためには最終条件をすり合わせる必要があります。
最終契約締結におけるプロセスは以下の通りです。
- 買い手は、DD実施後の最終条件を提示する
- 売り手は、提示された最終条件を検討し、場合によっては交渉・調整する
- 両者で最終契約書のドラフトをやりとりし、作成する
- 両者で最終契約書を締結する
買収監査における検出事項が軽微なものであった場合、基本合意で合意した条件から大きく変動せず、当初提示したものと同じ条件となるケースもありますが、重大な検出事項が見つかった場合は諸条件の変更が考えられます。
諸条件の変更の例として、例えば価格の引き下げを要求したり、M&Aスキームを変更したりすることなどが挙げられます。
売り手と買い手、両者の希望をすり合わせ、最終的な条件を決定します。
6. 取引実行
さて、最終契約の締結がM&Aのゴールではありません。
最終契約に取引実行に必要となる前提条件が規定されている場合は、その条件を充足しなければなりません。
前提条件とは、例えば以下のようなものが挙げられます。
- 借入金に関わるチェンジオブコントロール条項(※)の同意取得
- 賃借不動産に関わるチェンジオブコントロール条項(※)の同意取得
- 許認可の取得
- 主要得意先との取引継続方針の確認など
(※)チェンジオブコントロール条項とは、株主の異動等により契約の相手方に解除権が発生すること等を定める条項のこと
すなわち、取引実行までに以下の2つのプロセスを踏むことになります。
- 前提条件の充足
- 取引実行
なお、取引実行後の遵守事項があれば、その事項を遵守しなければなりません。
例えば、「譲渡後の一定期間、売り手はその事業と同じビジネスを行わないこと」という競業避止義務などがそれにあたります。
まとめ
さて、以上がM&Aの一連の流れです。
分岐したプロセスも含め改めてまとめると、以下のような流れになります。
- 準備
- 打診/初期検討
- 売り手と売り手側のM&A専門家が、買い手候補を選定する
- 売り手側のM&A専門家が、買い手候補にティーザーを配布する
- 興味を持った買い手候補があれば、売り手側のM&A専門家(もしくは売り手)と買い手候補先で秘密保持契約書を締結する
- 売り手側のM&A専門家は、売り手の会社名を開示し、決算情報などを記載した企業概要書を買い手候補に配布する
- 売り手と買い手候補先の希望があれば、両者の面談を実施する
- 本格検討を希望する買い手候補は、意向表明書を売り手に提示する
- 売り手と売り手側のM&A専門家は、受領した意向表明書を検討する
- 基本合意
- 基本合意書の作成
- 基本合意書の締結
- 買収監査
- 買い手は、DD専門家を選定する
- 買い手は、依頼資料・Q&Aリストを作成し、売り手に提出する
- 売り手は、買い手に依頼された資料・Q&Aリストに基づいて資料や回答を準備し、提出する
- 買い手は、売り手から提出された資料や回答の内容を検討する
- 買い手と対象会社の経営陣との面談を実施する
- 買い手は、経営陣面談の結果も踏まえ、追加のQ&Aを提出する
- 売り手は、追加で提出されたQ&Aへ回答する
- 買い手側のM&A専門家は、DD報告書を作成する
- 最終契約
- 買い手は、DD実施後の最終条件を提示する
- 売り手は、提示された最終条件を検討し、場合によっては交渉・調整する
- 両者で最終契約書のドラフトをやりとりし、作成する
- 両者で最終契約書を締結する
- 取引実行
- 前提条件の充足
- 取引実行