目次
実際のM&A事例をもとに、ニュースではあまり触れられないM&Aスキームを深堀するシリーズ。
今回は、2020年4月に実施されたミネベアミツミによるアナログ半導体メーカーであるエイブリックの買収について深堀していきます。
大型案件のスキームの中にも中小M&Aのスキームと共通する部分もありますので、ぜひそのあたりにも注目してください。
《執筆者》
PEファンド・M&Aアドバイザリーの実務経験があるSOGOTCHA(ソガッチャ)スタッフが執筆しました。
ミネベアミツミによるエイブリック社の買収
2020年4月に、ミネベアミツミがDBJ及びセイコーインスツルからエイブリックの株式を取得し、子会社化しました。
まずは、本案件に関わった当事者と取引スキームを整理しておきましょう。
今回の買収に関わった当事者は、次の4者です。
なお、M&Aのスキームを理解する際は、売り手・買い手・取引対象の3者が何かという点に着目するのがオススメです。
- 売り手…日本政策投資銀行(DBJ)、セイコーインスツル
- 買い手…ミネベアミツミ
- 取引対象…エイブリックの株式、及び同社そのもの
そして、本件のスキームはシンプルな株式譲渡です。
売り手であるDBJとセイコーインスツルはそれぞれ、エイブリックの株式の70%と30%を保有していましたが、その株式のすべてを買い手であるミネベアミツミに譲渡しました。
その結果、エイブリックはミネベアミツミの子会社となります。
なお、取得価格はおよそ300億円です。
M&Aの当事者やスキームを整理するときは文章よりも図や動画の方がわかりやすいと思いますので、ぜひ下記動画もチェックしてください。
▽関連動画:▶︎差がつくM&Aニュース◀︎ミネベアミツミによるアナログ半導体事業のエイブリックの買収(DBJ・セイコーインスツルからの株式譲渡)(2019年12月18日)
買収の目的
M&Aにはそれぞれの理由や目的、背景があります。
今回のM&Aにおいては、事業拡大が目的です。
ミネベアミツミはベアリングやモーターなどを製造する電子機器部品メーカーです。
ミネベアミツミは中期事業計画の中でコア事業を「8本槍」と位置付けており、エイブリックが営むアナログ半導体事業は、その中の1つに該当します。
両社は相互に補完しあえる製品ポートフォリオを有しており、研究開発や生産面でのシナジーを期待したM&Aだったようです。
M&Aを時系列で見てみよう
ミネベアミツミのプレスリリースを参考に、今回のM&Aのスケジュール感を見てみましょう。
2019年12月17日 | エイブリックの株式を取得(子会社化)することを発表 DBJ及びセイコーインスツルとの間で株式譲渡契約を締結したことを発表。この時点では、取引実行日を2020年7月頃を予定していた。 |
2020年4月27日 | 株式取得実行日の前倒しを発表 各国における競争法当局のクリアランス取得が想定より早期に完了したとして、2020年4月30日に取引を実行すると発表。 |
2020年4月30日 | エイブリックの株式を取得し、子会社化を完了したことを発表 |
2019年12月の時点で取引実行予定を7月に設定していた理由は、各競争規制当局からの許可を取得するためとしています。
大型のM&Aにおいては、独占禁止法の規制も関わってきます。
一定の要件に該当する場合は、公正取引委員会などに届け出る必要があります。
また、ミネベアミツミとエイブリックの両社はグローバルに展開しており、日本だけでなく各国の規制に従って対応する必要があるため、一定の準備期間を置いたものと推察されます。
そして2020年4月には、必要とされる各国における競争法当局のクリアランス取得が想定より早期に完了したとして、取引実行を前倒しにすると発表しました。
最終的に2020年4月30日に取引を実行し、ミネベアミツミがエイブリックを子会社化しました。
なお、最終契約(今回の場合は株式譲渡契約)の締結から取引実行までに充足すべき条件が付されるのは、大型のM&A案件に限った話ではありません。
中小M&Aでもよく登場する前提条件は、例えば次のようなものがあります。
- 借入金に関わるチェンジオブコントロール条項の同意取得
- 賃借不動産に関わるチェンジオブコントロール条項の同意取得
- 許認可の取得
- 主要得意先との取引継続方針の確認など
(※)チェンジオブコントロール条項とは、株主の異動等により契約の相手方に解除権が発生すること等を定める条項のこと
まとめ
さて、今回はミネベアミツミによるエイブリックの買収の事例をもとに、M&Aのスケジュール感や取引の前提条件についてご紹介しました。