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LBO(レバレッジドバイアウト)はM&Aにおける買収手法のひとつで、対象会社の信用力に基づいて資金を調達して買収を行うという特徴があります。
そして、LBOファイナンスは、買収・M&AのプロフェッショナルであるPEファンドの成長ととともに発展してきました。
PEファンドがLBOを利用する主な目的は、次の4つ。
- 投資効率の向上
- 買収価格の引き上げ
- 投資金額の限定
- ポートフォリオの分散
本記事では、これらの各項目について検討します。
なお、LBOの全体像について知りたい方は、【図解】LBO(レバレッジドバイアウト)をどこよりも丁寧に解説の記事をご覧ください。
また、本記事の内容は動画でもご覧いただけます。
《執筆者》
PEファンド・M&Aアドバイザリーの実務経験があるSOGOTCHA(ソガッチャ)スタッフが執筆しました。
LBOファイナンスとは
LBOファイナンスは、買収ファイナンスやM&Aファイナンスなどとも呼ばれます。
「買収」や「M&A」という言葉に裏付けられている通り、買収・M&Aの局面で使用されるファイナンスです。
LBOファイナンスは、買収・M&AのプロフェッショナルであるPEファンド(プライベート・エクイティ・ファンド)の成長ととともに発展してきました。
PEファンドは、ファンドに資金を提供してくれる投資家のために、約束したリターンを実現しなくてはなりません。
それも、一般的にはIRR(内部収益率のこと。1年あたりの利回りと捉えて頂いて結構です)で20%や30%といった高水準のリターンが求められます。
そのようなハイリターンを実現するため、投資に伴うリスクも預金や国債に比べると必然的に高くなり、すなわちハイリスクになります。
このようなハイリスクかつハイリターンなPEファンドのビジネスと付き合いながら、LBOファイナンスは発展してきました。
PEファンドのLBOの利用目的や活用場面
上記のような歴史的な背景だけでなく、現状においても、LBOの最大の利用者はPEファンドです。
では、どのような理由や目的でLBOを利用しているのでしょうか?
これについては、主に以下の4つの点に整理されます。
- 投資効率(パフォーマンス)の向上
- 買収価格の引き上げ
- 投資金額(リスク)の限定
- ポートフォリオの分散
これらの内、1~3の3つは個別の投資案件単位の話である一方、4はポートフォリオ全体の話になります。
以下、これらの点につき、個別に検討していきましょう。
1. 投資効率(パフォーマンス)の向上
まず、投資効率(パフォーマンス)の向上についてです。
この点につき検討する前に、PEファンドのビジネスモデルにつき簡単におさらいします。
PEファンドは、厳密にはただの資金の受け皿会社です。
実際の運営は、ファンドの運営会社であるGP(ジェネラルパートナー)が実施します。
PEファンドの運営者であるGPは、一般的にはPEファンドの運用成績に応じて報酬を得ます。
このため、GPとしては少しでもPEファンドの運用成績を向上させようとするインセンティブがあります。
そのような目的から、レバレッジ効果を活用して投資効率の改善を果たすべく、PEファンド(より正確にはPEファンドの運営者であるGP)は、LBOを利用します。
2. 買収価格の引き上げ
次に、買収価格の引き上げについてです。
M&Aである案件が売りに出るときの売却方法として、
- 相対方式
- 入札方式
の2つがあります。
相対方式の場合、売り手は特定の買い手とだけ交渉します。
一方、入札方式の場合、売り手は複数の買い手から入札の申込を受け付けます。
この場合、相対方式の場合に比べ、買収価格の要素が重要になります。
なぜならば、各買い手がそれぞれ入札価格を提出しているため、売り手としても単純な価格比較がしやすいからです。
但し、通常は他の条件(経営陣の継続・変更や従業員の雇用保証、シナジーなど)も考慮するため、その辺りの要素も影響します。
このように、特に入札方式の場合、買収を勝ち取るため、PEファンドは可能な限り入札価格を高めようと試みます。
そのためにLBOを利用します。
ここで、具体的な数値例で考えてみましょう。
例えば、買収価格を「100」とした場合、買い手の投資倍率が以下の2パターンだったとします。
- LBOファイナンスなし:投資倍率は1.5倍
- LBOファイナンスあり:投資倍率は1.875倍
※本記事では詳細な条件や計算過程は割愛しますが、【図解】レバレッジ効果を具体的な数値例で計算してみた【LBO】の記事では詳しく説明しています。
ここで、買い手であるPEファンドがターゲットとする最低限必要な投資倍率が1.5倍だったとします。
すると、LBOファイナンスを活用する場合、現在の投資倍率が1.875倍であるため、買収価格を少し上げ、投資倍率を1.5倍まで下げる余地があります。
すなわち、LBOファイナンスを利用すると投資倍率が向上しているため、買収価格を引き上げてもターゲットとする投資倍率をクリアできる余地があるということです。
このように、買い手のPEファンドはLBOを利用することでより高い買収価格を提示することができ、結果として、入札プロセスで買収を実現できる可能性が高まります。
3. 投資金額(リスク)の限定
続いて、投資金額(リスク)の限定についてです。
PEファンドとして、ある投資案件への投資額を限定したい場合を考えます。
例えば次のような理由から、PEファンドの自己資金を限定して投資を行いたいと考えているとします。
- ファンドとして残っている資金が少ない
- 他にも投資したい案件がある
- リスクが高い投資のため、自己資金の投資額を限定したい
このような場合、LBOファイナンスを調達して買収資金の一部に充てることで、買収に必要なPEファンドの自己資金を削減することができます。
また、万が一投資が失敗し、ロス(損失)につながるような場合でも、PEファンドの損失は投資額に限定されます。
4. ポートフォリオの分散
最後に、ポートフォリオの分散についてです。
上記で検討した1〜3は個別の投資案件単位の議論でしたが、これは投資案件の集合体であるポートフォリオのレベルの議論です。
これまでに見てきたように、LBOファイナンスを利用することで、PEファンドは個別の投資案件への投資額を限定することができます。
このため、PEファンド全体としてより多くの案件に投資することができます。
具体例を挙げてみましょう。
例えば、全体で100億円のPEファンドがあったとします。
ここで、1件あたり20億円の投資案件が複数あるとします。
各案件をフルエクイティ(LBOファイナンスなし)で行う場合、ファンド全体として5件しか投資することができません。
一方、各案件の買収金額20億円につき、それぞれLBOファイナンスで10億円を調達したとします。
この場合、ファンドの各案件への投資額は10億円となります。
結果として、ファンド全体で10件の投資を行い、ポートフォリオをより分散させることができます。
一般論として、また金融経済学の投資理論の一つとして、「卵を一つのさらに盛るな」という発想があります。
すなわち、より多くの投資案件に投資を分散することで、ポートフォリオ全体としてのリスクを低減することができます(分散投資によるポートフォリオのリスク低減効果)。
このように、LBOの利用は個別案件の投資効率の改善に資するだけでなく、ポートフォリオ全体としてのリスクの低減にも寄与します。
まとめ
さて、今回はPEファンドがLBOが利用する4つの理由について解説しました。
本記事の内容は動画でもご覧いただけます。
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