目次
事業譲渡契約書とは、事業の譲渡について定める契約書のことです。
インターネット上には種々の雛形やサンプルがありますが、どれも少しずつ違っていて、どの文例を採用すべきか頭を悩ませることもあるかと思います。
そこで、本記事では経済産業省策定の中小M&Aガイドラインの参考資料に掲載されている事業譲渡契約書を参考に、各条文が具体的に何を定めているのかということについて解説します。
なお、本記事の内容はこちらの動画でもご覧いただけます。
《執筆者》
PEファンド・M&Aアドバイザリーの実務経験があるSOGOTCHA(ソガッチャ)スタッフが執筆しました。
事業譲渡契約書の基本構成
本記事では、
- 事業譲渡契約の基本構成
- 事業譲渡契約の文例
の2つを照らし合わせながら話を進めます。
まず、事業譲渡契約の基本構成の全体像は以下の通りです。
- 当事者
- 取引の基本条件
- 譲渡価格
- 取引の実行(クロージング)
- 取引実行の前提条件
- 表明保証
- 誓約
- 補償
- 解除
- 一般条項
- 後文
なお、事業譲渡のスキームについては、【図解】事業譲渡とは?メリットや手続をわかりやすく解説!で詳しく取り上げています。
文例については、経済産業省策定の中小M&Aガイドラインの参考資料に掲載されている事業譲渡契約書を参考にします。
以下、条文の流れに沿って、事業譲渡契約の基本構成のどこに該当するかを確認しつつ、検討していきましょう。
事業譲渡契約書の文例:前文
まず、前文についてです。
【譲り渡し側】(以下「甲」という。)及び【譲り受け側】(以下「乙」という。)は、甲が現に営む事業のうち、○○事業(以下「承継対象事業」という。)を乙に譲渡することに関し、以下のとおり事業譲渡契約(以下「本契約」という。)を締結する。
前文には、事業譲渡契約の基本構成における
- 当事者
- 取引の基本条件
が記載されています。
当事者について整理すると、
- 甲:譲り渡し側(売り手)
- 乙:譲り受け側(買い手)
- 承継対象事業:甲が現に営む事業のうち、○○事業
です。なお、甲と乙に該当する売り手と買い手の2者が、事業譲渡契約の当事者となります。
事業譲渡契約書の文例:第1条(事業譲渡)、第2条(クロージング日)
続いて、第1条(事業譲渡)及び第2条(クロージング日)につき、検討していきます。
第1条 (事業譲渡)甲は、本契約に定める条項に従い、承継対象事業を乙に譲渡し、乙はこれを譲り受ける(以下「本事業譲渡」という。)。
第2条 (クロージング日)本事業譲渡を行う日(以下「クロージング日」という。)は、○○年○○月○○日とする。ただし、手続上の都合等により必要があるときは、甲乙協議のうえクロージング日を変更することができる。
本章と事業譲渡契約の基本構成を照らし合わせると、
- 取引の基本条件
に相当します。
第1条(事業譲渡)
まず第1条(事業譲渡)にて、本事業譲渡につき規定されています。
第2条(クロージング日)
次に、第2条(クロージング日)にて、本事業譲渡の取引実行日、すなわちクロージング日が規定されています。
事業譲渡契約書の文例:第3条(承継対象財産)
続いて、第3条(承継対象財産)についてです。
第3条 (承継対象財産)
1 本事業譲渡により、甲は乙に対し、クロージング日をもって、(i)承継対象事業に属する別紙1に記載の資産(以下「承継対象資産」という。)を譲渡するものとし、(ii)承継対象事業に関して甲が締結している別紙2に記載の第三者との間の契約(修正、変更、付随契約、特約等を含む。以下「承継対象契約」という。)における契約上の甲の地位の一切を移転するものとする。なお、別紙1及び2に記載された以外の資産又は契約を、本事業譲渡に伴い譲渡する場合、その価額等については甲乙が協議の上で決定するものとする。
2 本事業譲渡により、乙は、クロージング日をもって、承継対象事業に関し甲が負担する別紙3に記載の債務(以下「承継対象債務」といい、承継対象資産、承継対象契約及び承継対象債務を総称して「承継対象財産」という。)を免責的に引き受けるものとし、甲及び乙は、かかる債務の引受けにつき必要な手続(当該債務の引受けに対する当該債務の債権者からの承諾の取得を含む。)を相互に協力の上、行うものとする。なお、甲及び乙は、承継対象債務以外のいかなる債務も承継しないことを確認する。
本条は、事業譲渡契約の基本構成における
- 対象事業
に相当します。
本条では、本事業譲渡の対象となる財産及び債務について規定されています。
第1項では、事業譲渡の承継対象となる資産及び、承継対象となる契約につき、規定されています。
事業譲渡の場合、譲渡対象となる資産や契約を可能な限り個別具体的に特定することが重要であるため、その細目については、別紙としてまとめられていることが一般的です。
なお、事業譲渡は取引行為であるため、契約の移転については、契約の相手方の承諾が必要です。
そのような移転手続については、本事業譲渡契約では、第9条(移転手続)で規定されています。
続く第2項では、事業譲渡の承継対象となる債務につき、規定されています。
債務についても、本条第1項の承継資産や承継契約と同様、個別具体的に特定した上で、別紙としてまとめられるケースが一般的です。
事業譲渡契約書の文例:第4条(取引先の承継)、第5条(従業員の取扱い)
次に、第4条(取引先の承継)及び第5条(従業員の取扱い)についてです。
第4条 (取引先の承継)甲は、承継対象事業に関する甲の仕入先・販売店・下請先等の取引先(以下「取引先」という。)に対して、公表日(第19条において定義される。)以降クロージング日の前日までに、本事業譲渡について十分な説明を行い、かつ、乙が取引先を承継できるよう、取引先の承諾を得るものとする。万が一、乙が取引先の全部又は一部を承継できない場合は、甲乙で別途協議の上対策を講じるものとする。
第5条 (従業員の取扱い)
1 甲は、承継対象事業に従事している甲の従業員を、乙の従業員として転籍させるものとし、詳細については甲乙別途協議の上決定するものとする。
2 甲は、クロージング日に、前項により乙に転籍する従業員に対し、クロージング日までに発生する賃金・退職金債務その他甲との労働契約に基づき又はこれに付帯して発生した一切の債務を履行し、乙は同債務を承継しないものとする。
この2つの条項は、事業譲渡契約の基本構成における
- 誓約(プレクロ)
に該当します。
誓約(プレクロ)とは、クロージング前に履践する必要がある義務を意味します。
英語でPre-closing covenantsというため、略してプレクロと呼ばれます。
第4条(取引先の承継)
まず、第4条(取引先の承継)についてです。
本条では、売り手である甲の仕入先・販売店・下請先等の取引先につき、買い手である乙がきちんと承継できるよう、クロージング日の前日までに十分な説明を行い、取引先の承諾を得る旨が義務付けられています。
第5条(従業員の取扱い)
続く第5条(従業員の取扱い)では、承継対象事業の従業員の取り扱いについて規定されています。
第1項では、承継対象事業の従業員につき、売り手から買い手に転籍させる旨が規定されています。
また、第2項では、売り手から買い手に転籍することとなる、承継対象事業の従業員に関わる労働債務について、クロージング日に売り手の側で清算し、買い手である乙には承継させない旨が規定されています。
事業譲渡契約書の文例:第6条(譲渡代金)
次に、第6条(譲渡代金)についてです。
第6条 (譲渡代金)
1 承継対象事業の譲渡の対価(以下「譲渡代金」という。)は、金○○円(消費税及び地方消費税を別途支払うものとする。)とする。
2 乙は、譲渡代金をクロージング日までに、甲が別途指定する銀行口座に振込送金する方法により、甲に支払う。なお、振込手数料は乙の負担とする。
本条は、事業譲渡契約の基本構成における
- 譲渡価格
に相当します。
本事業譲渡契約では、「金○○円」として規定されていますが、場合によっては価格調整条項が規定されていることもあります。
事業譲渡契約書の文例:第7条(株主総会決議)、第8条(許認可)、第9条(移転手続)
続いて、第7条(株主総会決議)、第8条(許認可)、第9条(移転手続)についてです。
第7条 (株主総会決議)甲は、クロージング日までに、本契約の承認及び本事業譲渡に必要な事項に関する甲の株主総会の決議を得るものとする。
第8条 (許認可)甲及び乙は、本契約締結後速やかに、本事業譲渡に必要な許認可の取得、登録、届出等の手続を協力して行うものとし、手続に必要な費用は乙の負担とする。
第9条 (移転手続)
1 甲は、承継対象財産の細目を記載した引継書を作成し、クロージング日に当該引継書とともに承継対象財産並びに関係証憑、帳簿類及び承継対象事業に含まれる甲の取引先リストを乙に引き渡すものとする。
2 前項の承継対象財産の引渡しにつき、移転行為又は対抗要件としての登記・登録・通知・裏書・第三者の承諾等の諸手続を必要とするものについては、クロージング日までに当該手続を完了するものとする。ただし、乙が免除又は手続完了の遅延を了承した手続についてはこの限りではない。
これらの3つの条項は、事業譲渡契約の基本構成における
- 誓約(プレクロ)
に該当します。
第7条(株主総会決議)
まず、第7条(株主総会決議)についてです。
本条では、売り手である甲に関して、事業譲渡において必要となる株主総会決議を取得する旨、規定されています。
なお、事業譲渡で株主総会決議が必要なる場合、決議要件は普通決議ではなく、3分の2以上の賛成が必要となる特別決議である点、留意が必要です。
第8条(許認可)
次に、第8条(許認可)についてです。
売り手である甲、及び買い手である乙は、事業譲渡に際して必要となる許認可につき、協力して対応する旨が規定されています。
第9条(移転手続)
続いて、第9条(移転手続)についてです。
事業譲渡は個別の取引行為の集合体と言えるため、個別の契約や債務の移転につき、相手方の同意・承諾が必要となります。
本事業譲渡契約では、それらの要件につき、クロージング日までに手続を完了する旨が規定されています。
実務上は、重要な契約などについては事業譲渡の取引実行前に同意・承諾を得るといった対応をとりますが、重要でない契約については、通知のみで済ませるというケースもあります。
事業譲渡契約書の文例:第10条(表明および保証)
次に、第10条(表明および保証)についてです。
第10条 (表明及び保証)
1 甲による表明及び保証
甲は、乙に対し、本契約締結日及びクロージング日において、別紙4-1(甲の表明保証事項)に掲げる各事項が真実かつ正確であることを表明及び保証する。
2 乙による表明及び保証
乙は、甲に対し、本契約締結日及びクロージング日において、別紙4-2(乙の表明保証事項)に記載された各事項が真実かつ正確であることを表明及び保証する。
本条は、事業譲渡契約の基本構成における
- 表明保証
に相当します。
本条の第1項では、売り手である甲の表明保証につき規定されていますが、具体的な内容は別紙による旨、規定されています。
また、第2項では、買い手である乙の表明保証につき規定されています。
こちらも、具体的な内容は別紙による旨が規定されています。
事業譲渡契約書の文例:第11条(公租公課等の負担)
続いて、第11条(公租公課等の負担)についてです。
第11条 (公租公課等の負担)
1 承継対象財産に対する固定資産税等の公租公課、保険料、電気・水道・ガス等の使用料金等については、納税告知書、請求書等の宛名名義の如何にかかわらず、日割計算によりクロージング日前日までの分は甲が負担し、クロージング日以降の分は乙が負担する。
2 第9条第2項の移転手続に要する登録免許税等の公租公課は、乙が負担する。
本条は、事業譲渡契約の基本構成における
- 一般条項
に相当します。
本条では、クロージング前とクロージング後の公租公課の負担につき、規定されています。
事業譲渡契約書の文例:第12条(善管注意義務)
次に、第12条(善管注意義務)についてです。
第12条 (善管注意義務)甲は、本契約締結のときから本事業譲渡完了まで、承継対象事業及び承継対象財産を善良な管理者の注意をもって管理し、承継対象事業及び承継対象財産に重大な影響・変動を及ぼす行為をする場合は、予め乙の書面による承諾を得なければならない。
本条は、事業譲渡契約の基本構成における
- 誓約(プレクロ)
に相当します。
売り手は、本事業譲渡契約の締結から本事業譲渡の実行完了までの間、善管注意義務をもって、承継対象事業及び承継対象財産を管理することが義務付けられています。
事業譲渡契約書の文例:第13条(競業避止義務)
続いて、第13条(競業避止義務)についてです。
第13条 (競業避止義務)甲は、クロージング日以後○年間は、乙が承継する承継対象事業と競合する事業を自ら行わず、また他人をして行わせないものとする。
本条は、事業譲渡契約の基本構成における
- 誓約(ポスクロ)
に相当します。
誓約(ポスクロ)とは、クロージング後に履践する必要がある義務を意味します。
英語でPost-closing covenantsというため、略してポスクロと呼ばれます。
本条では、クロージング後一定期間、売り手である甲が承継対象事業と競合する事業を営めない旨、規定されています。
事業譲渡契約書の文例:第14条(本事業譲渡実行の前提条件)
次に、第14条(本事業譲渡実行の前提条件)についてです。
第14条 (本事業譲渡実行の前提条件)
1 甲の義務の前提条件
甲の本事業譲渡を実行する義務(承継対象財産の譲渡を含む。)は、クロージング日において以下の各条件の全てが成就していることを前提とする。ただし、甲は、以下の各条件のいずれについても、その裁量により条件不成就を主張する権利を放棄することができる。
① 第10条第2項において規定された乙による表明及び保証が、重要な点において真実かつ正確であること。
② 乙が、クロージング日までに本契約に基づきなすべき義務を全ての重要な点において履行しかつ遵守していること。
2 乙の義務の前提条件
乙の本事業譲渡を実行する義務(第6条第2項に定める譲渡代金支払義務を含む。)は、クロージング日において以下の各条件の全てが成就していることを前提とする。ただし、乙は、以下の各条件のいずれについても、その裁量により条件不成就を主張する権利を放棄することができる。
① 第10条第1項において規定された甲による表明及び保証が、重要な点において真実かつ正確であること。
② 甲が、クロージング日までに本契約に基づきなすべき義務を全ての重要な点において履行しかつ遵守していること。
③ クロージング日までに、本事業譲渡を承認する甲の株主総会議事録の原本証明付写しが乙に対し提出されていること。
本条は、事業譲渡契約の基本構成における
- 取引実行の前提条件
に相当します。
取引実行の前提条件は、英語で「conditions precedent」と表記され、この頭文字を取ってCP(シーピー)と略されることが一般的です。
本条の第1項として、売り手である甲の義務の前提条件が規定されています。
事業譲渡における売り手の義務は、事業の譲渡です。
売り手は、本事業譲渡契約では、
- 買い手の表明保証違反がないこと(本条第1号)
- 買い手が義務を履行したこと(本条第2号)
という要件が満たされた場合、事業譲渡により事業を譲渡する義務を負うことになります。
一方、第2項では、買い手である乙の義務の前提条件が規定されています。
事業譲渡における買い手の義務は、事業譲渡の対価の支払いです。
買い手は、本事業譲渡契約では、
- 売り手の表明保証違反がないこと(本条第1号)
- 売り手が義務を履行したこと(本条第2号)
- 本事業譲渡を承認する売り手である甲の株主総会議事録の写しの提出(本条第3号)
の3つの要件が満たされた場合、事業譲渡により事業を取得し、その対価を支払う義務を負うことになります。
事業譲渡契約書の文例:第15条(事業譲渡条件の変更及び本契約の解除)
続いて、第15条(事業譲渡条件の変更及び本契約の解除)についてです。
第15条 (事業譲渡条件の変更及び本契約の解除)本契約締結の日からクロージング日までの間において、以下のいずれかの事由が甲又は乙に生じた場合は、他方当事者は、クロージング日までの間に限り本契約を解除することができる。ただし、甲及び乙は、解除を行うに際しては事前に協議を行うものとする。また、甲及び乙は、本契約の解除に代えて、協議の上、本契約を変更することができる。
① 天災地変その他の事由により、甲又は乙の資産状態、経営状態に重大な変動が生じた場合。
② 本契約に定める甲又は乙の義務に重大な違反が存する場合。
③ 甲が、通常の業務の範囲を超えて、承継対象事業の価値を減少させ、又は本事業譲渡の実行を困難にするおそれのある行為を新たに行った場合(ただし、甲乙間にて合意の上行う場合を除く。)。
④ その他本事業譲渡の実行に重大な支障となる事態(第14条の前提条件不充足を含む。)又は本事業譲渡を困難にする事態が生じている場合。
本条は、事業譲渡契約の基本構成においては、
- 条件変更…一般条項
- 契約解除…解除
にそれぞれ相当します。
本条では、第1号から第4号の各号で規定される事象が生じた場合は、本事業譲渡契約を解除できる旨、規定されています。
事業譲渡契約書の文例:第16条(甲による補償)、第17条(乙による補償)
次に、第16条(甲による補償)及び第17条(乙による補償)についてです。
第16条 (甲による補償)
1 甲は、乙に対し、第10条第1項に定める甲の表明保証の違反又は本契約に基づく甲の義務の違反に起因又は関連して乙が被った損害、損失又は費用(合理的な弁護士費用を含む。以下「損害等」という。)を補償する。
2 前項の補償のうち、甲の表明保証の違反に基づく補償責任は、乙が、クロージング日から○年経過するまでに書面により甲に請求した場合に限り生じるものとし、合計損害額○○円を上限とする。
3 甲は、乙が第1項に基づく補償の請求の対象となる自らの損害等の拡大を防止するための措置を執らなかったことにより拡大した損害等については、第1項に基づく補償責任を条理上合理的な範囲で免れるものとする。
4 本契約に商法第526条の規定は適用されないものとする。
第17条 (乙による補償)
1 乙は、甲に対し、第10条第2項に定める乙の表明保証の違反又は本契約に基づく乙の義務の違反に起因又は関連して甲が被った損害等を補償する。
2 前項の補償のうち、乙の表明保証の違反に基づく補償責任は、甲が、クロージング日から○年経過するまでに書面により乙に請求した場合に限り生じるものとし、合計損害額○○円を上限とする。
3 乙は、甲が第1項に基づく補償の請求の対象となる自らの損害等の拡大を防止するための措置を執らなかったことにより拡大した損害等については、第1項に基づく補償責任を条理上合理的な範囲で免れるものとする。
これらは、事業譲渡契約の基本構成における
- 補償
に相当します。
第16条(甲による補償)
まず、第16条(甲による補償)についてです。
買い手である乙は、売り手である甲の表明保証違反や義務違反により損害を被った場合、売り手である甲から補償を受けることになります。
但し、補償については、本条第2項にある通り、期間的な上限及び金額的な上限が設定されることが一般的です。
第17条(乙による補償)
次に、第17条(乙による補償)についてです。
本条では、前条の第16条とは逆に、売り手である甲は、買い手である乙の表明保証違反や義務違反により損害を被った場合、買い手である乙から保証を受けることになります。
本条でも、前条同様、第2項にて、補償の期間的・金額的な上限が規定されています。
事業譲渡契約書の文例:第18〜22条(一般条項)
続いて、第18条から第22条についてです。
これらの条項は、事業譲渡契約の基本構成における
- 一般条項
に相当します。
順に見ていきましょう。
第18条(秘密保持義務)
まず、第18条(秘密保持義務)です。
第18条 (秘密保持義務)
1 甲及び乙は、本契約締結日から○年間、(i)本契約の検討又は交渉に関連して相手方から開示を受けた情報、(ii)本契約の締結の事実並びに本契約の存在及び内容、並びに(iii)本契約に係る交渉の経緯及び内容に関する事実(以下「秘密情報」と総称する。)を、相手方の事前の書面による承諾なくして第三者に対して開示してはならず、また、本契約の目的以外の目的で使用してはならない。ただし、上記(i)の秘密情報のうち、以下の各号のいずれかに該当する情報は、秘密情報に該当しない。
① 開示を受けた時点において、既に公知の情報
② 開示を受けた時点において、情報受領者が既に正当に保有していた情報
③ 開示を受けた後に、情報受領者の責に帰すべき事由によらずに公知となった情報
④ 開示を受けた後に、情報受領者が正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負うことなく正当に入手した情報
⑤ 情報受領者が秘密情報を利用することなく独自に開発した情報
2 甲及び乙は、前項の規定にかかわらず、以下の各号のいずれかに該当する場合には、秘密情報を第三者に開示することができる。
① 自己の役員及び従業員並びに弁護士、公認会計士、税理士、司法書士及びフィナンシャル・アドバイザーその他のアドバイザーに対し、本契約に基づく取引のために合理的に必要とされる範囲で秘密情報を開示する場合。ただし、開示を受ける者が少なくとも本条に定める秘密保持義務と同様の秘密保持義務を法令又は契約に基づき負担する場合に限るものとし、かかる義務の違反については、その違反した者に対して秘密情報を開示した当事者が自ら責任を負う。
② 法令等の規定に基づき、裁判所、政府、規制当局、所轄官庁その他これらに準じる公的機関・団体(事業引継ぎ支援センターを含む。)等により秘密情報の開示を要求又は要請される場合に、合理的に必要な範囲で当該秘密情報を開示する場合。なお、かかる場合、相手方に対し、かかる開示の内容を事前に(それが法令等上困難である場合は、開示後可能な限り速やかに)通知しなければならない。
M&Aにおいては、案件検討の当初に秘密保持契約書を締結し、その後基本合意書でも改めて秘密保持義務の条項が規定されることがありますが、事業譲渡契約でも改めて秘密保持義務が規定されます。
第1項では、秘密保持義務の対象と例外について規定されています。
第1号から第5号までの各号が、秘密保持義務の例外という位置づけです。
また、第2項では、開示可能な第三者が規定されています。
特に、第1号にあるように、売り手や買い手が委託する専門家には情報が開示できるよう、きちんと確認しておく必要があります。
第19条(第三者への公表日)
次に、第19条(第三者への公表日)です。
第19条 (第三者への公表日)
1 本契約締結及びこれに関する一切の事実の対外的公表の日(以下「公表日」という。)は、○○年○○月○○日とする。当該対外的公表の方法等については、甲及び乙が協議の上決定する。
2 各当事者は、公表日まで、本契約締結及びこれに関する一切の事実について秘密保持に努めるものとする。
通常、M&Aは水面下で秘密裏に進むケースが一般的ですが、契約調印やクロージングのタイミングで、外部に公表されるケースがあります。
また、上場会社の場合は、基本合意書の締結など一定の適時開示要件に該当した場合、開示することとなります。
なお、公表については売り手・買い手双方の意向があるため、必ずしも開示が行われるわけではない点、ご留意ください。
第20条(契約上の地位又は権利義務の譲渡等)
続いて、第20条(契約上の地位又は権利義務の譲渡等)です。
第20条 (契約上の地位又は権利義務の譲渡等)甲及び乙は、相手方の書面による事前の承諾を得ない限り、本契約上の地位又は本契約に基づく権利義務につき、直接又は間接を問わず、第三者に譲渡、移転、承継又は担保権の設定その他の処分をしてはならない。
本条は、売り手及び買い手が、本事業譲渡契約における地位や権利・義務について原則として譲渡することはできない旨を規定するものです。
第21条(準拠法・裁判管轄)
続いて、第21条(準拠法・裁判管轄)です。
第21条 (準拠法・管轄)
1 本契約は、日本法に準拠し、これに従って解釈される。
2 本契約に関する一切の紛争(調停を含む。)については、○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
国内の事業譲渡契約では、準拠法は日本法となるのが一般的です。
一方、裁判管轄は、売り手・買い手の所在地などから、双方の協議・交渉によって決定されます。
第22条(誠実協議)
一般条項の最後は、第22条(誠実協議)です。
第22条 (誠実協議)
甲及び乙は、本契約に定めのない事項及び本契約の条項に関して疑義が生じた場合には、信義誠実の原則に従い、誠実に協議の上解決する。
事業譲渡契約の内容及び契約に規定していない事項については、売り手・買い手双方が誠実に協議する旨を規定しています。
事業譲渡契約書の文例:後文
最後に、後文です。
本契約締結の証として本書2通を作成し、甲乙記名捺印の上、各1通を保有する。
後文は、事業譲渡契約の基本構成においては、広い意味での
- 一般条項
に相当します。
後文では、原本を2部作成し、各自が1部ずつ持つことが規定されています。
まとめ
以上が、事業譲渡契約書の構成と文例です。
なお、今回参照した本事業譲渡契約では、事業譲渡契約の基本構成における
- 取引の実行(クロージング)
に該当する条項が個別に規定されていませんでしたが、契約書の体裁によっては個別の条項として規定されている場合もあります。
この辺りは、案件ごとにケースバイケースですので、適宜ご確認ください。
なお、本記事の内容はこちらの動画でもご覧いただけます。
SOGOTCHA(ソガッチャ)では、オンラインでM&Aの相談を受け付けています。
PEファンド・M&Aアドバイザリーの実務経験があるSOGOTCHA(ソガッチャ)スタッフがサポートしますので、ぜひお気軽にご相談ください。