目次
はじめに
前回までで、国民経済計算の中でGDPがどのように算出されるかということを解説しました。これは、財市場に関わる取引を中心に観察する指標でした。マクロ経済を捉える上で、そのほかの市場である金融市場と労働市場についても観察する必要があります。今回は、そのうちの金融市場について解説します。
▽関連記事:
金融の意義
まず、「金融」とは字の通り、お金を融通すること、特に、お金の余っているところから足りないところへ融通することを意味します。
例えば、企業は、新しいビジネスアイディアがあっても、事業を始める段階では手元にお金が無いかもしれません。事業に必要な設備を購入するための資金を、外部の投資家などから提供を受けることができれば、アイディアを実現し利益をあげることができます。
また、家計は、住宅ローンとして銀行から借り入れることで、手元にお金がなくても住宅を購入することができますし、政府は国債を発行し家計や企業からお金を集めることで、社会保障制度を拡充することができます。このように、お金の提供を受けることを資金調達と呼び、資金調達をする主体を資金調達主体と呼びます。
反対に、お金が余る場合もあります。所得として得たお金から必要な支出を行ってもまだ残りがあるような場合です。このような場合には、上述のような資金調達主体に提供することができます。このように、資金を提供することを資金運用と呼び、資金運用をする主体を資金運用主体と呼びます。
資金調達と資金運用のニーズをうまく結びつけ、お金が必要なところに動いていくようにすることが金融の意義で、それを行う仮想的な場を金融市場と呼びます。
金融資産と金融負債
ある主体が資金を運用する、すなわち資金を提供する場合、当然ですがその見返りを求めることになります。多くの場合、どの程度の資金が提供され、そしてその見返りとしてどのように資金が受け渡されるかを契約によって定めます。この契約を一般的に金融契約と呼びます。
例えば、住宅ローンは住宅の購入者と銀行の間で結ばれる金融契約です。住宅ローンを利用する際には、購入資金の提供を受ける代わりに将来に渡って月々の返済額を支払う、ということを定めた契約を銀行との間で結ぶことになります。
また、銀行の預金口座にお金を預金するときにも、実は金融契約を結んでいます。この場合は明示的に契約書を交わすことはしませんが、預金契約のルールにしたがって、銀行は将来に預金者が預金残高を引き落とそうとしたときにその要求に答える義務を負うことになっています。
金融契約によって、資金運用主体は将来に見返りを受けとる権利を得ます。この権利を債権と呼びます。このような債権を、保有していると将来に価値をもたらすものと見做し、金融資産とも呼びます。一方、資金調達主体は将来に見返りを支払う義務を負います。この義務を債務、あるいは金融負債と呼びます。
上の一つ目の例では、住宅ローンは銀行にとっての金融資産、住宅の購入者にとっての金融負債になりますし、二つ目の例では預金口座残高が預金者にとっての金融資産、銀行にとっての金融負債になるということです。
実際にどの程度の金融資産が保有されているか見てみましょう。日銀が作成する資金循環統計は、家計・企業・政府・海外のマクロ経済の部門の間で、どの程度の資金の取引が行われているかを計測しまとめた統計です。
図1は、資金循環統計から、各部門の保有する金融資産・金融負債の残高を抜き出したものです。これを見ると、まず家計で金融資産が金融負債を超過していることがわかります。これは、家計が全体として他の部門に対し資金を提供していることを意味しています。他方、企業・政府・海外では逆に金融負債が金融資産を超過しています。つまり、これらの部門は全体として他の部門から資金を調達しているということです。
さまざまな金融資産
ここまでに説明した通り、資金の調達と運用はさまざまな主体の間で行われています。金融契約を結ぶにあたり、どのような見返りが望ましいかは、契約を結ぶ主体の都合によって異なります。見返りの金額や受け渡される期日はそれぞれのニーズに応じて設定されるべきです。例えば、同じ家計でも、自動車事故の費用支払いに備えたい場合と、老後の生活資金を準備したい場合では、見返りの期日や金額は大きく異なります。そのため、金融資産にはさまざまな種類があります。
表1は、図1で用いた資金循環統計から日本の金融資産の主な種類別の金額をまとめたものです。
項目を順番に説明します。現金とは、硬貨・紙幣のことです。預金は、銀行などの金融機関の預金口座に預けられた残高のことです。日常的に使用する普通預金や定期預金の他に、企業が利用する当座預金、金融機関が日銀に預け入れる日銀預け金などが含まれます。貸出の代表的なものは、金融機関による家計に対する住宅ローンや企業に対する貸し付けです。債務証券は、政府の発行する国債や大企業の発行する社債が代表例です。
これらの金融資産の多くは、保有した時点で見返りの金額の大きさが確定しています。例えば定期預金では、預け入れた時点で満期日にいくらになって返ってくるかがわかりますし、国債のうち固定利付債と呼ばれるものは満期日まで保有するとどれだけの金額を受け取るかが確定しています。このような金融資産を、一般的に安全資産と呼びます。
これに対し、見返りの金額が条件によって変動する契約をリスク資産と呼びます。表1の下半分の株式、投資信託、保険・年金などは一般的にリスク資産に分類されます。株式は、企業の利益を受け取る権利を与える金融資産で、その企業の業績によって受け取ることのできる利益の大きさが変動します。投資信託とは、資金を預け株式や債務証券などでの運用を委託しその収益を受け取る金融資産で、運用の成績によって受け取ることのできる見返りが変化します。保険は、自動車事故やケガなどの特定の事由が起きるかどうか、年金は死亡する年齢によって受け取る見返りの大きさが変化します。
表1に示した通り、日本全体で8,677兆円の金融資産が保有されています。2019年のGDPが約560兆円なので、およそ15倍程度の規模の資金が金融市場で取引されているということになります。
金融市場の取引量は上の通りですが、価格はどのように捉えれば良いでしょうか?一般の金融資産に対しては難しいですが、安全資産に対しては金利が価格に相当する指標ということになります。次の節ではこの金利について説明します。
金利
住宅ローンや社債など、安全資産の金融取引によって資金を借り入れる場合、その調達額のことを元本と呼びます。返済時には、多くの場合この元本に追加の見返り分である利子を加えて返します。利子の元本に対する比率を金利と呼びます。例えば、100円を1年間借り入れ、元本100円に利子20円を加えて返済する場合には、
金利=利子/元本=20円/100円=20%
となります。
金利あるいは利子は、資金の借り入れの価格のようなものと考えられます。財の取引では、材を購入する主体が、財を販売する主体に対し、対価としてその価格分の支払いをします。金融取引では、資金を調達する主体が、資金を提供する主体に対し、対価として金利あるいは利子を支払う、ということになっています。ですから、金利が低ければ低いほど、資金調達はしやすくなり、金利が高ければ高いほど資金調達はしにくくなるということです。
上の例では、1年間の契約に対する金利を計算しました。期間を1年とする金利を年利と呼びます。他には、期間を1ヶ月とする月利などが比較的よく使用されます。
単利と複利
上の例では、年利20%で1年間100円を借り入れるということだったので、
返済額=元本+利子=元本+元本×金利=100円+100円×20%=100円×(1+20%)=120円
として返済額を計算することができました。もし、年利20%で2年間100円を借り入れる場合には、20%という金利が2回適用されることになります。このようなとき、金利を借り入れ期間中に発生した利子に対して適用するかどうかによって、単利と複利という2つの異なる計算方法があります。
単利とは、途中に発生した金利に対し金利を適用しない、元本にのみ適用する計算方法です。この方法では、2年後の返済額は
100円+100円×20%+100円×20%=100円×(1+20%+20%)=140円
と計算します。これに対し、複利は途中に発生した利子と元本の合計に対し金利を適用する計算方法です。複利をこの例に適用すると、
(100円+100円×20%)×(1+20%)=100円×(1+20%)²=144円
となります。
短期金利と長期金利
先ほどの例では、借り入れる期間は2年間でした。このように、期間が1年以上の契約に対する金利を長期金利、1年未満の契約に対する金利を短期金利と呼びます。例えば、日本政府では、様々な期間の債務証券を発行して資金を調達しています。期間が数ヶ月から1年の調達の場合は国庫短期証券と呼ばれる債務証券を発行します。これに対する金利は短期金利となります。期間が1年以上の調達の場合は、国債と呼ばれる債務証券を発行します。期間が長いものでは、30年、40年などの国債も利用されています。これらに対する金利は長期金利ということになります。報道で長期金利について言及する場合には、期間が10年の国債の金利を指すことが多いです。
まとめ
今回は以下の内容について説明しました。
- 「必要なところにお金を融通する」という金融の意義
- 金融契約によって資金提供への見返りを定め、金融資産と金融負債が生じること
- 金融市場の取引量の統計である資金循環統計
- 金融資産の種類
- 金利の基礎的な事項
このように、経済学における概念は抽象的で、一見わかりづらい面もあります。
例えば、
- 自社マーケティングの一環として、M&Aや金融・経済分野のコンテンツを充実させたい
- 社員のスキルアップのため、M&Aや金融・経済分野の研修動画を作成したい
- 営業ツールとして動画を活用したい
このような場面で、もし動画マーケティングや動画コンテンツの制作においてパートナーが必要と思われたなら、弊社までお問い合わせください。
弊社は、M&Aや金融・経済分野に強い動画マーケティング支援として、SOGOTCHA VIZ(ソガッチャビズ)というサービスを提供しています。
SOGOTCHA VIZ(ソガッチャビズ)は、ファンド・M&Aアドバイザリー経験者や、大学で経済学の教鞭を取る者など、確かな知見を備えたプロフェッショナルがクライアントの動画制作に伴走します。
そのため、まだ粗い段階の企画フェーズからサポートすることが可能です。
コミュニケーションコストを抑えつつ、クオリティの高い動画制作を実現します。
気になることがございましたら、遠慮なくご連絡ください。