マクロ経済の計測と三面等価|マクロ経済学1

マクロ経済の計測と三面等価|マクロ経済学1

マクロ経済の計測と三面等価|マクロ経済学1

マクロ経済学とは

目的・問題意識

このシリーズでは、マクロ経済学の基礎的な内容を説明します。

マクロ経済学とは次のような疑問に答えるための学問です。

 ・不景気・失業はなぜ起こるか?

・経済成長のスピードを決めている要因は何か?

・政策によって不景気・失業を避けられるか?経済成長のスピードを上げられるか?

これらは、私たちの生活に密接に関連した疑問です。日本経済の景気がどのような状況にあるかによって就職活動の市場は一変します。また、すでに大きく経済成長した先進国に生まれるか、これから発展する途上国に生まれるかによって生活の経済的な豊かさは大きく左右されます。

政府や政策当局が介入することで、不景気の影響を小さくしたり、経済成長を加速することでより豊かな生活を実現できるかどうか、ということがマクロ経済学の中心的な問題意識です。

「マクロ」とは「全体で捉える」という意味

マクロ経済学の「マクロ」とは、「巨視的な」とか「全体で捉える」という意味の言葉です。上の3つの疑問を改めて見てもらうとわかる通り、これらは全て、日本経済や先進国の経済、途上国の経済といったひとまとまりの経済を対象として捉えた疑問です。例えば、日本全体の経済や、アメリカ全体の経済、世界全体の経済が典型的な分析対象ということです。

マクロ経済学のアプローチ

マクロ経済は、一国に限っても非常に複雑で巨大なもので、膨大な数の人や組織が複雑に関連し影響しあっています。それをそのまま細部にまで渡ってとらえることは現実的ではありません。まず私たちの興味のある対象を定め、計測して集計する必要があります。

このような考えに基づいて作られているのが、GDPや失業率、物価に代表されるマクロ経済指標です。第1章では、こういったマクロ経済指標について学習します。

マクロ経済学の目的と計測

日本の失業率の変動

まず図1を見てください。これは、最近およそ30年の日本の失業率の推移のグラフです。これを見ると、2つのピークがあることがわかります。一つ目が、2002年でこれは「就職氷河期」と呼ばれる時期です。二つ目は、2009年で、これはリーマンショック直後のタイミングに当たります。これらの時期には、景気の悪化により多くの人が職を失い、経済的に困窮したことが推察されます。

日本の完全失業率の推移
図1 日本の完全失業率の推移(1990年から2019年)[出所:総務省「労働力調査」から筆者作成]

韓国と北朝鮮の経済成長

次に、図2をみてください。これは、夜間の朝鮮半島を、人工衛星によって上空から撮影した画像です。NASAが2012年に撮影しました。これを見ると、南側の韓国に白いエリアが多く、北側の北朝鮮ではほとんどの部分が黒くなっています。白く光っているところは照明があるところで、人や建造物があり何らかの経済活動が行われていることを示しています。

夜間の朝鮮半島の衛星写真
図2 夜間の朝鮮半島の衛星写真(2012年)[出所:NASA]

二つの国は、1948年に分断されるまで、ほぼ同程度の経済的状況にありました。この画像が示していることは、分断から現在までの数十年の間に、両国が全く異なるスピードで経済成長してきたということです。

国民経済計算:景気変動や経済成長の計測の枠組み

これらの例は、同じ国でも景気が良くなったり悪くなったりすること、そして異なる地域で経済成長のスピードが異なることを示しています。「はじめに」で説明した通り、マクロ経済学の目的は、このような景気の変動や経済成長の要因やメカニズムを探り、不景気の回避や素早い経済発展のためにどのようなことが可能かを明らかにすることにあります。

そのようなことを考えるためには、まず、景気の水準や、経済成長のスピードを計測する必要があります。

これを行うための枠組みが、国民経済計算と呼ばれるものです。その中心的な指標が、国内総生産(Gross Domestic Product, GDP)です。これは、ある一定期間内に経済全体でどれだけの価値の商品や設備、サービスなどが生産されたかを測る指標です。これを例えば毎年計測して、例年に比べて低ければ景気が悪い、他国に比べて伸び率が低ければ成長が遅い、というように判断するということです。

三面等価とは

上記の考え方は、経済活動の様々な側面のうち、生産に着目するアプローチです。生産される価値が少なければ経済活動の水準が低く、生産される価値が多ければ経済活動の水準が高い、とするということです。

これ以外の方法として、どれだけの価値の商品や設備、サービスに対して支出が行われたか、に着目する方法もあり得ます。人々や企業がどれだけの支出をしたかを観察し、それが少なければ経済活動の水準が低く、多ければ経済活動の水準が高い、とするアプローチです。

また、経済全体でどれだけの価値が儲けられたか、つまり所得という側面に着目するアプローチもあり得るでしょう。

実は、上にあげた3つの側面、生産、支出、所得のどれに着目して経済活動の水準を計測したとしても同じ結果になる、という原則が知られています。これを、三面等価の原則、と呼びます。

最も簡単な例

このことを、簡単な数値例を通じて見てみたいと思います。


例1 三面等価

ある島に、Aさんが一人で生活しています。話を簡単にするために、Aさんはコメを食べるだけで生活していけるということにしておきます。コメの生産は、企業Rが行います。その際に、Aさんを雇用し、労働の対価として給与を支払います。

ここでは、企業Rは毎年コメ100kgを生産し、Aさんに対し給与100万円を支払うということにします。Aさんはこの100万円を支払って、コメ100kgを企業Rから購入します。

この状況で、生産、支出、所得をそれぞれ算出してみましょう。

生産:この経済で、生産を行っているのは企業Rです。生産したコメはAさんが100万円で購入したので、生産したコメの価値は100万円です。ですから、総生産は100万円です。

支出:この経済で、支出をしているのはAさんです。Aさんは、コメ100kgの購入のために100万円を支払っています。ですから、この経済の総支出は100万円です。

所得:この経済で、所得を得ているのはAさんです。Aさんは、労働の対価である給与所得として100万円を得ています。ですから、この経済の総所得はやはり100万円です。


この例では先ほど説明した通り、生産、支出、所得の3つの側面で経済活動の水準が一致しているということがわかります。なぜそのような一致が起こるのか、もう少し考えてみましょう。

なぜ生産と支出は一致するか

まず、生産の価値を見てみると、これが100万円となっているのは企業RとAさんとの取引で100万円という価値がついているためだということがわかります。ここで注目して欲しいことは、この100万円という取引価格が、生産の価値でもあるし支出の価値でもあるということです。その結果、生産と支出が一致しているのです。

この議論には違和感を持つかもしれません。実際には、生産したとしても売れ残り在庫となる場合があり、その可能性を見落としているように聞こえます。マクロ経済計算上では、このような在庫も、投資として企業の行う支出の一部として捉えるため、そのような齟齬が起こらないようになっています。次の例では、そのような状況を見てみましょう。


例2 三面等価;売れ残り在庫のある場合

上の例1と同様、ある島にAさんが一人で生活しており、コメを食べるだけで生活していけるということにしておきます。コメの生産は、企業Rが行います。その際に、Aさんを雇用し、労働の対価として給与を支払います。

ここでは、企業Rは毎年コメ100kgを生産し、Aさんに対し給与100万円を支払うということにします。ただし、例1と異なり、Aさんはコメ50kgだけを50万円で企業Rから購入し、50kgは売れ残るとします。

この状況で、生産、支出、所得をそれぞれ算出してみましょう。

生産:この経済で、生産を行っているのは企業Rです。生産したコメの価値は100万円分ですから、総生産は100万円です。

支出:この経済で、支出をしているのはAさんと企業Rです。Aさんは、コメ50kgの購入のために50万円を支払っています。企業Rは、コメ50kgを売れ残り在庫とするわけですが、これを企業Rが在庫投資として得たものとみなし、その価値50万円を支出として計上します。ですから、この経済の総支出は50万円+50万円=100万円です。

所得:この経済で、所得を得ているのはAさんです。Aさんは、労働の対価である給与所得として100万円を得ています。ですから、この経済の総所得はやはり100万円です。


なぜ生産と所得は一致するか

もう一つ、生産と所得がなぜ一致するかについても考えてみます。例1でも例2でも、生産された価値は全て給与所得として分配されています。生産した価値は、全て所得として分配されるため、生産と所得が一致する、ということです。

これについても、企業が価値を分配する際に、給与として支払う以外に他の方法があることを見落としているように感じるかもしれません。実際には、利益を配当として支払ったり利益剰余金などの形で内部に留めることも可能です。マクロ経済計算上では、これらも株主や企業の得ている所得の項目として計上することで、生産と所得を一致させています。これについても、数値例を見てみます。


例3 三面等価;利益と配当がある場合

例1と同様に、企業Rがコメ100kgを生産するとします。コメの生産のためにAさんを雇用します。ここから先が例1とは異なり、労働の対価としてAさんに60万円の賃金を支払うことにします。生産したコメ100kgは、例1と同様に100万円(価格は1kg当たり1,000円)で販売します。すると、企業Rの利益は、100万円−60万円=40万円 となります。

この企業Rの利益が誰のものになるかは、企業Rを誰が所有しているかによって決まります。ここでは、企業Rは株式会社で、Aさんが企業Rの全ての株式を保有しているとします。その結果、企業Rの利益はAさんに帰属することになります。ここでは企業Rは生み出した利益の40万円全てを配当として株主であるAさんに支払うことにします。

この状況で、生産・所得・支出をそれぞれ算出してみます。

生産:この経済で、生産を行っているのは企業Rです。生産したコメの価値は100万円ですから、総生産は100万円です。

支出:この経済で、支出をしているのはAさんです。Aさんは、コメ100kgの購入のために100万円を支払っています。ですから、この経済の総支出は100万円です。

所得:この経済で、所得を得ているのはAさんです。Aさんは、労働の対価である給与所得として60万円、配当所得として40万円を得ています。ですから、この経済の総所得は60万円+40万円=100万円です。


三面等価の原則を改めて述べておきます。

三面等価

マクロ経済活動を生産面、支出面、所得面のどの側面から測定しても同じ結果を得るという原則。

ですから、国内総生産を計測する際には、どの側面から測定しても良い、ということになります。実際の測定においても、例えば速報値には支出面からの測定値を用いる、というようなことが行われています。

まとめ

  • マクロ経済学の目的は、景気の変動や経済成長の要因やメカニズムを探り、不景気の回避や素早い経済発展のためにどのようなことが可能かを明らかにすることにあります。
  • そのようなことを考えるための経済活動の計測の枠組みが、国民経済計算と呼ばれるものです。その中心的な指標が、国内総生産(Gross Domestic Product, GDP)です。
  • 三面等価の原則によると、経済活動の水準を生産、支出、所得のどの側面から計測しても同じ結果を得ることになります。
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