富士フイルムによる日立製作所の画像診断事業の買収スキームを解説

富士フイルムによる日立製作所の画像診断事業の買収スキームを解説

富士フイルムによる日立製作所の画像診断事業の買収スキームを解説

実際のM&A事例をもとに、ニュースではあまり触れられないM&Aスキームを深堀するシリーズ。

今回は、2019年12月に実施された富士フイルムによる日立製作所の画像診断事業の買収について深堀していきます。

《執筆者》

PEファンド・M&Aアドバイザリーの実務経験があるSOGOTCHA(ソガッチャ)スタッフが執筆しました。

富士フイルムによる日立製作所の画像診断事業の買収

富士フイルムによる日立製作所の画像診断事業の買収

2019年12月に、富士フイルムが日立製作所の画像診断事業を買収しました。

この案件は画像診断関連事業という一部の事業のM&Aで、いわゆるカーブアウト型のM&Aに当たります。

このような一部の事業のカーブアウト型のM&Aの場合、事業譲渡や会社分割などのスキームが用いられるケースが多いです。

一方、本件では「売り手による新会社の設立+同新会社への吸収分割」という、教科書などではあまり見られないスキームが採られているのが特徴的です。

さて、まずは本案件に関わった当事者とその取引スキームを整理していこうと思います。

なお、M&Aスキームは文章よりも図や動画の方がわかりやすいと思いますので、ぜひ下記動画をご覧いただいてから本記事を読み進めていただくのをオススメします。

▽関連動画:▶︎差がつくM&Aニュース◀︎富士フイルムによる日立製作所の画像診断事業の買収(日立による会社分割+株式譲渡)(2019年12月19日)

買収に関わった主な当事者

買収に関わった主な当事者

まず、今回の買収に関わった当事者を整理しておきましょう。

M&Aのスキームを理解する際は、売り手・買い手・取引対象の3者が何かという点に着目するのが近道です。

  • 売り手…日立製作所
  • 買い手…富士フイルム
  • 取引対象…今回の買収に伴い日立製作所の画像診断関連事業を会社分割した新会社の株式、及び同社そのもの

事業買収のスキーム

事業買収のスキーム

富士フイルムによる日立製作所の画像診断事業の買収は、会社分割+株式譲渡のスキームで実施されました。

次の3つのステップに分けて考えることができます。

  1. 新会社の設立…日立製作所が、分割対象事業の受け皿として新会社を設立する
  2. 会社分割(吸収分割)…日立製作所が、分割対象事業を上記1の新会社に会社分割(吸収分割)で移管する
  3. 株式譲渡…日立製作所は新会社の株式を富士フイルムに譲渡し、その対価を受領する

この結果、新会社は富士フイルムの100%子会社となります。

このスキームのうち、本記事では「1. 新会社の設立」と「2. 会社分割(吸収分割)」の2段階のステップに注目して深堀していこうと思います。

新会社設立+吸収分割というスキームの理由

新会社設立+吸収分割というスキームの理由

実は、今回のスキームである新会社設立+吸収分割と最終的に同じ効果が得られる別の方法として、分社型吸収分割というスキームもあります。

分社型吸収分割とはなんぞやということを説明すると少し長くなってしまうので、よかったら【図解】会社分割とは?新設分割と吸収分割の違いをご覧ください。

簡単に、この2つのスキームの同じ点はどこかというと、

  • 事業を譲り受けるのは、新たに設立される会社
  • 事業の対価を受け取るのは、元々その事業を保有していた会社

という2点です。

一方、違う点はどこかというと、

  • 新会社設立+吸収分割の場合は、新会社を作った後に、事業を移転する
  • 分社型吸収分割の場合は、新会社の設立と事業の移転が同じタイミングで行われる

ということです。

では、これがM&Aにどのような影響を及ぼすのか。

例えば許認可の取得が必要なケースの場合、新会社設立+吸収分割の2段階に分けることによって、先に設立した会社で許認可を取得して、その後に事業を移転することができます。

一方、分割型吸収分割の場合は新設会社が許認可を持っていない場合があり、そうなると事業を移転しても、許認可を取得するまで事業をストップさせなければなりません。

このような理由から、最終的な効果が同じでも、2段階のステップからなる新会社設立+吸収分割というスキームが用いられる場合があります。

事業買収の目的

事業買収の目的

ところで、どんなM&Aにもその目的が存在しますよね。

今回の買収によって、富士フイルムはヘルスケア領域のさらなる事業拡大を図るとしています。

また、具体的にどのようなシナジーを期待するかについては、富士フイルムのニュースリリースにこう記載されています。

  1. 製品ラインアップの拡充によるワンストップでのトータルソリューションを提供
  2. 当社画像処理技術、AI技術と製品を組み合わせ、革新的なソリューションを提供
  3. 販売チャネルの相互活用による営業力強化

SoGotcha!では具体的なスキームについてご紹介することが多いですが、M&Aのニュースリリースなどを見ると取引の背景や関係者の思惑なども見えてきて、非常にドラマチックで勉強になります。

まとめ

さて、今回は富士フイルムによる日立製作所の画像診断事業の買収の事例をもとに、会社分割のスキームに焦点を当ててご紹介しました。

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