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TOKAIホールディングスは、静岡県焼津市のガス会社として誕生しましたが、住宅設備や情報通信・CATVに事業領域を拡大し、またそれと歩みを合わせて全国展開を進めています。
事業成長の過程で、ガスやCATVを中心とした地理的拡大、また建築設備不動産や情報通信を中心とした事業領域拡大の手段として、M&Aが積極的に活用されています。
以下では、TOKAIホールディングスの経営戦略とM&Aについて説明します。
また、本記事の概要は、こちらの動画でもご覧頂けます。
TOKAIホールディングスはどんな会社か?
こちらは、TOKAIホールディングスの特徴を図示したものです。同社はガス事業から始まり、それに関連する周辺分野へと事業領域を拡大してきました。
まず、ガス事業で培った設備管理ノウハウなどを活かし、住宅設備分野に進出。続いて、LPガスの管理システムの開発をきっかけに、情報通信分野へも事業領域を拡大。その後、ガス事業で有する顧客基盤と情報通信事業のノウハウを活かせるCATV事業や、ガス事業の顧客ネットワークを活用できるアクア事業にも参入しています。
このように、同社は祖業であるガス事業を起点としつつ、トータルライフコンシェルジュというビジョンの下、顧客の生活をワンストップで幅広くサポートすべく、事業領域を拡大してきました。
TOKAIホールディングスの概要
TOKAIホールディングスは、ガス事業を行っていたTOKAIと、同社の子会社でケーブルテレビや情報通信事業を営んでいたビック東海(現TOKAIコミュニケーションズ)が2011年に経営統合したことで誕生した持株会社です。
TOKAIホールディングスの起源は、1950年、静岡県焼津市で設立された焼津瓦斯です。当初は都市ガスのみを取り扱っていましたが、1959年、LPガスへも製品ラインナップを拡大し、現在はLPガスが主力となっています。
事業領域の多角化
1970年、ガス事業で培った設備管理や住宅・不動産の知見・ノウハウに基づき、住宅設備分野に進出します。その後も、1972年にブライダル、1973年に保険、1984年に機械警備業務であるセキュリティ事業にも進出し、事業の多角化を進めます。
情報通信分野への進出
1983年、LPガスの配送センターシステムの開発を契機とし、将来的なIT社会の到来を見越し、情報通信分野にも進出します。情報通信事業は、システム開発に始まり、データセンター、インターネット、ADSL/FTTH、通信ネットワーク、モバイルへと事業領域を拡大していきます。
ケーブルテレビ分野への進出
1988年、東部電気の買収を通じ、静岡県沼津市でケーブルテレビ(CATV)事業に参画します。CATV事業は、ガス事業を通じて有する顧客基盤、及び情報通信事業との親和性が高く、同社の強みを活かすことができる事業と考えられます。同事業では、その後もM&Aを積極的に実施し、地理的な拡大を進めます。
アクア・介護・電力分野への進出
2000年代以降も新たな分野への進出を進めます。2007年には、ガス事業で有する顧客ネットワークを活かし、富士山の名水を販売するアクア事業を開始します。2011年には、高齢化社会の進展を背景に、介護事業に進出。また、2016年には、電力小売の全面自由化に伴い、電力事業にも参入しています。
地理的な拡大
TOKAIホールディングスは、事業領域の拡大と共に、地理的にも領域拡大を進めてきました。
静岡県焼津市で事業を開始したTOKAIホールディングスは、1959年に静岡全域に進出、1979年には関東圏の1都7県(東京・神奈川・千葉・埼玉・茨城・栃木・群馬・福島)に進出します。その後、2006年に愛知、2009年に長野・岡山、2012年に大阪・宮城、2014年に福岡、2016年に岐阜、2019年に三重、2020年に秋田、2021年に熊本、2022年に広島と着実に全国展開を進めています。
また、海外についても、2012年に中国・上海、2013年に台湾、2014年にミャンマー、2020年にベトナムと、中国・ASEAN圏への進出を進めています。
TOKAIホールディングスの事業内容
時代の変化に合わせ、事業領域を拡大してきたTOKAIホールディングスですが、現在の主力事業は、以下の5つです。
- エネルギー
TOKAIホールディングスの祖業であり、主にLPガスと都市ガスから構成されます。 - 情報通信
法人向け・個人向け共に展開し、ソフト開発やクラウドサービス、MVNOなどを展開しています。 - CATV
静岡・東京・神奈川・千葉・長野・岡山・宮城の1都6県で展開しています。 - 建築設備不動産
2019年の総合建設業者日産工業の買収を皮切りに、電気工事、ビルメンテナンス、大規模修繕、廃棄物処理など、事業領域を拡大しています。 - アクア
日本国内だけでなく、中国上海にも事業展開しています。
エネルギー事業の割合が低下しつつあり、ガス以外への経営の多角化が進んでいると言えます。
TOKAIホールディングスの経営戦略とM&A
TOKAIホールディングスの経営戦略におけるM&Aの位置付けについて整理します。
TOKAIホールディングスの経営戦略
TOKAIホールディングスは、顧客の暮らしを総合的にきめ細かくサポートし、多彩な生活関連サービスをワンストップで提供するトータルライフコンシェルジュ(TLC)を同社が目指すべき姿として掲げています。
また、2021年5月策定の中期経営計画「Innovation Plan 2024」において、トータルライフコンシェルジュに至る過程の10年後の姿として、顧客の潜在ニーズを汲み取り、ライフスタイルをデザインするライフデザイングループを目指しています。これは、従来同社が担ってきた「生活インフラの提供」に留まらず、「暮らしのサポート」さらには「ライフスタイルのデザイン・提案」にまで同社のサービス領域を広げていくという方針を示しています。具体的には、以下のような内容です。
- 範囲
従前は家庭内中心でしたが、今後は家庭を囲む社会生活にまでサポート範囲を拡大する方針です。 - サービス
従前は生活必需インフラの提供が中心でしたが、今後はインフラに加え、体験から構成されるコト消費にもサービス範囲を拡大します。 - 提供方法
従前はサービスが個別に提供される足し算型でしたが、今後は総合生活サービスというグループの強みを活かすべく、個々のサービスを掛け合わせた掛け算式での価値提案を志向しています。 - 役割
従前は生活を支えるという役割でしたが、今後は顧客の望む暮らしの潜在ニーズを捉え、それに応えるライフスタイルをデザイン・提案する役割を目指しています。
TOKAIホールディングスのM&A実績
TOKAIホールディングスのM&A実績を整理すると、以下の通りです。
- ガス
1992年 関東熔材、千葉酸素、福島高圧ガス
2019年 伊勢崎ガス
2020年 ベトナムMIEN TRUNG GAS - CATV
1988年 東部電気(静岡県沼津市)
1993年 テレビ共聴開発(静岡県富士市)
1995年 裾野共同テレビ協会(静岡県裾野市)
1997年 三島テレビ放送(静岡県三島市)
1998年 いちはらコミュニティー・ネットワーク・テレビ(千葉)
2003年 イースト・コミュニケーションズ(千葉)
2009年 エルシーブイ(長野)、倉敷ケーブルテレビ(岡山)
2010年 ドリームウェーブ静岡
2017年 東京ベイネットワーク(東京)
2018年 テレビ津山(岡山)
2019年 シオヤのCATV事業(静岡県三島市)
2020年 仙台CATV(宮城) - 建築設備不動産
2019年 日産工業(総合建設)
2020年 中央電機工事(電気工事)
2020年 イノウエテクニカ(ビルメンテナンス)
2021年 マルコオ・ポーロ化工(大規模修繕)
2022年 ウッドリサイクル(廃棄物処理) - 情報通信
2018年 サイズ(情報サービス)
2019年 アムズブレーン、アムズユニティー(ソフト開発)
2021年 クエリ(システム開発) - その他
1989年 米喜(よねき)バルブ(製造業へ進出。2010年売却)
1999年 日興会館(ブライダル)
2019年 テンダー(介護、太陽光)
M&A類型の整理
TOKAIホールディングスのM&Aは、主に以下の3つの類型に分類できます。
- 新規事業進出
第1に、新規事業進出です。TOKAIホールディングスの場合、CATV事業の起点となった1988年の東部電気の買収、及び製造業への進出の契機となった1989年の米喜バルブの買収が挙げられます。
ただし、新規事業進出にM&Aが活用されたのはいずれも1980年代と古く、またその後は実施されていないため、基本的には既存事業の強化を目的として、M&Aが活用されていると言えます。 - 既存事業強化① 地理的拡大
第2に、既存事業強化① 地理的拡大です。ガスやCATVなど、面取り合戦の様相を呈する事業において、M&Aを通じて積極的な地理的拡大を実現しています。 - 既存事業強化② 事業領域拡大
第3に、既存事業強化② 事業領域拡大です。建築設備不動産事業や情報通信事業では、M&Aを通じて、既存事業の周辺分野へと事業領域を拡大しています。特に、建設関係では、2019年の総合建設業者の日産工業の買収に始まり、電気工事、ビルメンテナンス、大規模修繕、廃棄物処理とサービスラインナップを強化しています。
今後のM&A戦略の見通し
TOKAIホールディングスの今後のM&A戦略について、以下の点に沿って検討します。
- トータルライフコンシェルジュ
第1に、トータルライフコンシェルジュです。TOKAIホールディングスは、目指すべき姿としてトータルライフコンシェルジュを掲げており、顧客にワンストップで幅広いサービスラインナップを提供するため、今後もこれまでと同様、既存事業の周辺領域への事業領域拡大を目的としたM&Aが継続されるものと思われます。 - 中計の経営指標
第2に、中計の経営指標です。2021年5月策定の中期経営計画「Innovation Plan 2024」において、2025年3月期の計画値として、以下を掲げています。
売上高 2,450億円(2022年3月期2,107億円)
営業利益 186億円(同158億円)
顧客件数 356万件(同319.4万件)
これらの数字を実現すべく、ガスやCATVを中心とした地理的拡大の継続、及び建築設備不動産や情報通信事業の周辺領域への事業領域拡大が継続されるものと推察されます。