目次
2021年1月25日(月)から29日(金)までに公表されたプライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)による主なM&A案件は、以下の通りです。
公表日 | 買い手 | 対象会社 | 売り手 | 備考 |
1月25日 | セレンディップ・ ホールディングス アント・キャピタル・ パートナーズ | アペックス | – | |
1月29日 | イーエムシステムズ | ノーザ | CLSAキャピタル パートーナーズ | 一部Exit |
今週は、PEファンドによる投資1件・Exit(一部)1件が公表されています。
今回は、こちらのアント・キャピタル・パートナーズによるアペックスの投資事例につき、内容を検討します。
なお、以下の内容は公開情報に基づき作成しているため、実際のスキームとは異なる可能性もある点、ご了承ください。
また、PEファンドそのものについての理解を深めたい方は、こちらの資料もご参照ください。
▽関連資料:ファンドガイドブック
なお、本記事の内容はこちらの動画でもご覧いただけます。
投資事例:アント・キャピタル・パートナーズによるアペックスへの投資
1月25日(月)、アント・キャピタル・パートナーズより、「株式会社アペックスとの資本業務提携について」というリリースが出されました。
また、同社とともにアペックスと資本業務提携をしたセレンディップ・ホールディングス、及び対象会社のアペックスも、それぞれ同様のリリースを出しています。
- セレンディップ・ホールディングス「株式会社アペックスとの資本業務提携に関するお知らせ」
- アペックス「資本業務提携に関するお知らせ」)
アント・キャピタル・パートナーズ株式会社は2000年設立のPEファンド運営会社で、昨年設立20周年を迎えた業界の老舗企業です。農林中央金庫・三井物産企業投資が主要株主として関与しています。プライベート・エクイティ投資とセカンダリー投資の2つの切り口で投資事業を行っています。本件は、セカンダリー投資チームによる投資となります。
なお、アント・キャピタル・パートナーズについて詳しく知りたい方は、こちらの書籍もご参照ください。
▽関連書籍:
また、本件でアント・キャピタルとともに買い手となったセレンディップ・ホールディングス株式会社は、2006年に設立され、「プロ経営者の派遣」「経営×金融」を軸とした独自の事業を展開しています。中部地区の製造業を中心に、「事業承継×モノづくり」の領域でセレンディップ・グループを形成しています。
本件の対象会社である株式会社アペックスは、1975年に設立され、自動車部品の試作受託を行っている会社です。主に自動車分野における概念実証モデル(PoC)、デザインモックアップ、試作品設計製造等に強みを持っています。
本件は、PEファンド運営会社のアント・キャピタル・パートナーズが、事業会社のセレンディップ・ホールディングスとともに、共同で投資を行った案件です。
それでは、次の各テーマに沿って、本投資事例の概要につき検討していきましょう。
- 関係者
- 目的・背景
- スキーム
なお、以下の内容は公開情報に基づくものであり、一部推測に基づいて作成している部分もあるため、実際のケースとは異なる可能性もある点、ご了承ください。
関係者
まず、関係者についです。
具体的なスキームは明記されていませんが、株式譲渡(100%)を前提とすると、主な関係者は以下の通りと推察されます。
- 実質的な買い手
アント・キャピタル・パートナーズ(正確には同社の運営ファンド)とセレンディップ・ホールディングス - 形式的な買い手
アント・キャピタル・パートナーズ(正確には同社の運営ファンド)とセレンディップ・ホールディングスのグループ会社であるセレンディップ・フィナンシャルサービスが設立したアペックスホールディングス。セレンディップ・フィナンシャルサービスは、簡単化のため省略します。 - 売り手
アペックスの株主 - 取引対象
アペックスの株式 - 対象会社
アペックス
なお、LBOファイナンスが利用されている場合、ファイナンサーとしてLBOレンダーが登場しますが、今回は省略します。
目的・背景
続いて、目的・背景についてです。
セレンディップ・ホールディングス及びアペックスは、今回の資本業務提携の背景や目的として、主に次のように説明しています。
- 自動車部品量産に強みを持つセレンディップ・グループと試作分野に強みを持つアペックスが協働することで、より付加価値の高い製品の開発及び製造を展開
- セレンディップ・ホールディングスの知見や経営基盤を基に、アペックスの東海地区での営業を強化
- セレンディップ・グループの三井屋工業との連携による自動車内装分野における共同開発も検討
ここで、PEファンド運営会社であるアント・キャピタル・パートナーズが本件に関与した背景について検討します。
セレンディップ・ホールディングスがアント・キャピタル・パートナーズと協働した背景・目的として、次のようなものが考えられます。
- 資金面のサポート
1つ目は、資金面のサポートです。
買収資金の一部を調達する目的で、アント・キャピタル・パートナーズと協働した可能性があります。 - 人材面のサポート
2つ目は、人材面のサポートです。
セレンディップ・ホールディングスは、事業の一環としてプロ経営者の派遣も行っていますが、本件ではアント・キャピタル・パートナーズの人材面でのサポートを期待し、協働した可能性もあります。 - 経営ノウハウのサポート
3つ目は、経営ノウハウのサポートです。
こちらも、セレンディップ・ホールディングスの本業のひとつではありますが、アント・キャピタル・パートナーズが有する独自の経営ノウハウに期待し、協働した可能性もあります。
以上はいずれも推測の域を出ませんが、事業会社がPEファンドと協働する場合は、何かしらの背景・目的があってのものだと考えられます。
スキーム
続いて、本件のスキームについてです。
情報が限定的であるため、スキームについても推測による部分が大きくなりますが、100%の株式譲渡を前提とすると、次の4つのステップから構成されたのではないかと推察されます。
- ステップ1. 持株会社の設立
実質的な買い手であるアント・キャピタル・パートナーズ(正確には同社の運営ファンド)及びセレンディップ・ホールディングスは、本件の投資を行うための持株会社として、アペックス・ホールディングスを設立します。
本件の買収資金も、出資を通じて拠出されたと考えられます。 - ステップ2. 売り手による株式の譲渡
売り手である株主は、買い手であるアペックス・ホールディングスに対し、株式を譲渡します。 - ステップ3. 買い手による対価の支払
買い手であるアペックス・ホールディングスは、売り手に対し、株式の対価を支払います。 - ステップ4. 持株会社による子会社化の完了
以上の取引の結果、アペックス・ホールディングスがアペックスを子会社化します。
100%株式譲渡を前提とすると、本件は比較的シンプルなスキームだったのではないかと推察されます。
なお、株式譲渡のスキームや論点についてはこちらの記事でまとめていますので、株式譲渡について詳しく理解したい方は、こちらの記事もご参照下さい。
▽関連記事:株式譲渡とは?事業譲渡との違いやメリットデメリット
▽関連記事:【図解】株式譲渡で知っておくべきこと【手続/法務/会計/税務】
まとめ
以上、今回はアント・キャピタル・パートナーズによるアペックスへの投資の事例をピックアップしました。
SOGOTCHA(ソガッチャ)では、毎週PEファンドが関わるM&A事例につきピックアップしていきますので、ぜひご覧ください。
なお、日本で活動するバイアウトファンド・メザニンファンドについて具体的に知りたい方は、こちらの資料をご参照ください。
▽関連資料:ファンドガイドブック
毎週のニュースをご覧頂くと分かる通り、PEファンドは頻繁にM&Aを行っています。このため、あなたも急にPEファンドと関わることになるかもしれません。
例えば、
- PEファンドの投資先について、自社に買収検討の打診があった。
- 自社のノンコア部門について、PEファンドから買収検討の打診があった。
- 自社のオーナーが、PEファンドへの会社の売却を検討しているらしい。
- 今度、PEファンドのExit案件のアドバイザリーをすることになった。
- 銀行から、成長資金の調達先としてPEファンドの紹介を受けることになった。
そのような場面で、もしご自身の横に立って一緒に交渉や検討を進めてくれるパートナーが必要と思われたなら、弊社までお問い合わせください。
弊社は、手の届くM&AアドバイザリーとしてSOGOTCHA MOA(ソガッチャモア)というM&Aアドバイザリーサービスを提供しています。
気になることがございましたら、ご遠慮なくご連絡ください。