経営戦略とM&A|ENEOSグループ

経営戦略とM&A|ENEOSグループ

経営戦略とM&A|ENEOSグループ

ENEOSグループの経営戦略とM&Aについて整理します。

なお、本記事の概要は、こちらの動画でもご覧頂けます。

ENEOSグループの目指す姿

目指すべき姿

ENEOSグループの目指す姿

石油元売りを中心としたエネルギー企業であるENEOSグループは、2040年長期ビジョンの中で、2040年のあるべき姿として、以下を掲げています。

  1. アジアを代表するエネルギー・素材企業
  2. 事業構造の変革による価値創造
  3. 低炭素・循環型社会への貢献

これらの3つは、社会的なトレンドである「低炭素・循環型社会への変化(3)」に対応しつつ、「アジアトップクラスのエネルギー・素材企業(1)」を目指すためには、「事業ポートフォリオの見直し(2)」が必要、と整理することができると思われます。

将来の事業ポートフォリオ

将来の事業ポートフォリオ

ENEOSは、2040年長期ビジョンにおいて、2040年における事業の将来像として、以下のような事業ポートフォリオを掲げています。

成長事業=戦略投資の強化

  • 石化
  • 素材
  • 次世代型エネルギー供給
  • 地域サービス
  • 環境対応型事業

基盤事業=CFの最大化

  • 石油・ガス開発
  • 石油精製販売
  • 銅資源・製錬

基盤事業である「石油・ガス開発」「石油精製販売」「銅資源・製錬」ではキャッシュフローの最大化を図りつつ、成長事業である「石化」「素材」「次世代型エネルギー供給」「地域サービス」「環境対応型事業」への戦略投資を強化し、2040年における主力事業として育てる計画です。

このような事業ポートフォリオの方針は、両利きの経営の実践例と捉えることもできます。すなわち、「既存事業の深耕」に相当する「知の深化」を基盤事業で推進し、また同時並行で「新規事業の促進」に相当する「知の探索」を成長事業で進めていると考えられます。

カーボンニュートラル

ENEOSは、2040年長期ビジョンにおいて、2040年におけるカーボンニュートラルの実現を掲げています。こちらについては、別の記事で取り上げます。

ENEOSグループの現状

上記のような「目指すべき姿」に対し、ENEOSグループの現状について整理します。

グループ構成

グループ構成

ENEOSグループは、持株会社であるENEOSホールディングスを中心に、各事業セグメントに応じて、以下のようなグループ構成となっています。

  • 持株会社=ENEOSホールディングス
  • エネルギー=ENEOS
  • 石油・天然ガス開発=JX石油開発
  • 金属=JX金属

事業内容

事業内容

事業内容について、2022年3月期のセグメント別営業利益に基づいて整理すると、将来の事業ポートフォリオとの対応関係は、以下の通りと推察されます。

エネルギー 4,775億円
 石油製品他 1,262億円 …基盤事業(石油精製販売)
 石油化学製品 ▲68億円 …成長事業(石化)
 電力 ▲190億円 …成長事業(次世代型エネルギー供給)
 素材 68億円 …成長事業(素材)
 在庫影響 3,703億円
石油・天然ガス開発 970億円 …基盤事業(石油・ガス開発)
金属 1,582億円 …基盤事業(銅資源・製錬)

ENEOSグループの経営戦略

以上で見た「目指すべき姿」と「現状」を埋める経営戦略として、ENEOSは、中期経営計画(2020〜2022年度)において、以下のような基本方針を掲げています。

定性面

定性面
  1. 基盤事業:継続的なキャッシュ創出
    「石油精製販売」「石油・ガス開発」「銅資源・製錬」の基盤事業においては、競争力の強化による継続的なキャッシュ創出が期待されています。これは、両利きの経営における「知の深化」に相当するものと思われます。
  2. 成長事業:選択投資・事業ポートフォリオ最適化
    「石化」「素材」「次世代型エネルギー供給」「地域サービス」「環境対応型事業」から成る成長事業においては、育成・強化のための選択投資、及び事業ポートフォリオ最適化の追求が目指されています。これは、両利きの経営における「知の探索」に相当するものと思われます。
  3. 全体:財務健全性の維持とCFの適正配分
    基盤事業の強化と成長事業の育成を実施するにあたり、財務健全性の維持とCFの適正配分という規律が設けられています。

定量面

定量面

また、定量的な方針として、以下の通り掲げられています。(いずれも3ヶ年累計での値)

 営業損益(在庫影響除き) 9,700億円
 設備投資 1兆5,000億円 → 1兆6,300億円*
 資産売却 1,500億円 → 3,200億円*
 FCF 1,500億円 → ▲400億円*
 総還元性向 50%以上
 ネットD/E 0.8倍以下
 ROE 10%以上
 *2022/3期決算説明時の見通し

上記の内、設備投資は、上図のように、「上流・戦略投資・事業維持」に細分され、戦略投資9,600億円の内、7,800億円が「次世代型エネルギー供給、石化・素材」といった成長事業に充てられます。

事業戦略|ENEOSプラットフォーム

事業戦略|ENEOSプラットフォーム

ENEOSは、各事業における事業戦略を設定していますが、ここでは成長事業の内、次世代型エネルギー供給・地域サービスにおけるENEOSプラットフォームについて取り上げます。

ENEOSは、既存のサービスステーション(SS)をベースに、以下のような複数のサービスを提供するプラットフォームの構築を目指しています。

  • エネルギーサービス(ガソリン、電気等)
  • モビリティサービス(カーシェアリング、メンテナンス等)
  • ライフサポート(宅配ボックス、ランドリー等)

一般的なプラットフォームビジネスはデジタルプラットフォームが中心ですが、ENEOSの場合はサービスステーションというリアルプラットフォームを土台とし、そこにデータを連携させることでデジタルプラットフォームも構築するという、リアルとデジタルが融合したプラットフォームの実現を目指しています。

経営戦略の中でのM&A

経営戦略の中でのM&A

ここでは、経営戦略の中でM&Aがどのように位置付けられ、活用されているかを整理します。

買いのM&A|成長事業の戦略投資

ENEOSが買い手となる立場で、成長事業における戦略投資の手段として、M&Aが活用されています。主な買収案件として、以下が挙げられます。

JSRのエラストマー事業の買収

2021年5月、ENEOSは、合成ゴム・半導体材料などの大手であるJSRから、タイヤなどに用いられている合成ゴムのエラストマー事業の買収を発表しました。
本件は、成長事業のひとつである素材の事業拡大をM&Aにより実現するものです。

ジャパン・リニューアブル・エナジーの買収

2021年10月、ENEOSは、再生可能エネルギー発電事業者の大手であるジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE)の買収を発表しました。買収金額は、約2,000億円とのことです。
本件は、成長事業のひとつである次世代型エネルギー供給の事業拡大をM&Aにより実現するものです。

NECのEV充電網の買収

2022年6月、ENEOSは、NECからの電気自動車(EV)充電サービス事業の承継を発表しました。
本件は、成長事業の内、次世代型エネルギー供給及び地域サービスの事業拡大をM&Aにより実現するものです。

売りのM&A|基盤事業の選択と集中

ENEOSが売り手となる立場で、基盤事業の選択と集中の手段として、M&Aが活用されています。なお、基盤事業の売却で得た資金が、成長事業の戦略投資に活用されます。主な売却案件として、以下が挙げられます。

北海油田事業の売却

北海油田事業は、基盤事業の石油・ガス開発に位置付けられ、事業の選択と集中の一環として、イギリスのネオ・エネルギーに企業価値約16.6億ドルで売却されました。

ミャンマー事業の売却

ミャンマー事業は、基盤事業の石油・ガス開発に位置付けられますが、ミャンマー軍のクーデターに伴い、本事業からの撤退が決定されました。本事業は、日本政府・ENEOS・三菱商事の3社が出資するJXミャンマー石油開発により実施されていましたが、三菱商事も撤退を表明済みであり、ENEOSが保有する株式の買い手が見つかるかは不透明とのことです。

石炭事業の売却

石炭事業は、ENEOSにとって小規模の事業であり、事業の選択と集中の一環として、オーストラリアやカナダで保有する炭鉱の権益が売却されることとなりました。金額規模は数十億円程度とのことです。

NIPPOの非公開化

2021年9月、ENEOSはグループ会社であり東証1部に上場していた道路舗装大手のNIPPOの売却を公表しました。ゴールドマン・サックスが設立したSPCが株式公開買付(TOB)を実施し、NIPPOを非公開化しました。ENEOSは、当該SPCに再出資することでNIPPOとの連結を維持しますが、将来的な再上場時は資本関係を解消する予定とのことです。

SDGs・ESGが後押しするM&A

SDGs・ESGが後押しするM&A

ENEOSが推進するM&Aについて、SDGs・ESGの観点から整理します。

  • 脱炭素・SDGs・ESGの潮流
    第1に、脱炭素・SDGs・ESGの潮流です。気候変動対応としての脱炭素、経営におけるSDGsの重視、株式市場におけるESG投資の増加やダイベストメントの進展といった潮流が、ENEOSを取り巻く外部環境の根底にあると言えます。
  • 求められる事業構造改革
    第2に、求められる事業構造改革です。脱炭素・SDGs・ESGといった外部環境は、石油事業を中心とするENEOSグループに対し、事業構造改革を求める外圧となっています。ENEOSは、脱炭素・SDGs・ESGに対応した将来像を長期ビジョンで提示し、その姿を実現すべく、事業構造改革を進めています。
  • 手段としてのM&A
    第3に、手段としてのM&Aです。ENEOSは、事業構造改革を進める手段のひとつとして、M&Aを活用しています。具体的には、前述のように、成長事業の拡大のための買いのM&A、及び、基盤事業の選択と集中のための売りのM&Aが活用されています。

このように、脱炭素・SDGs・ESGの潮流は、石油事業を中心とするENEOSグループの事業ポートフォリオに大きな変革を求めるものであり、同社はそれらに真摯に対応すべく、M&Aを活用した事業構造改革を進めていると言えます。

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