目次
PEファンドは、ファンドへの出資者(LP出資者)から資金を募り、ファンド運営会社(GP)がその資金を投資・運用し、利益を生み出します。
ここで、PEファンド運営会社の報酬は、投資成績に連動する部分、すなわち成功報酬となっている部分があるのが一般的です。
また、PEファンドの担当者においても、キャリー(キャリードインタレスト)と呼ばれる特有の報酬があります。
今回は、PEファンドの運営会社及び担当者の報酬体系につき、整理していきます。
《執筆者》
PEファンド・M&Aアドバイザリーの実務経験があるSOGOTCHA(ソガッチャ)スタッフが執筆しました。
PEファンドの報酬体系
本記事では、管理報酬や成功報酬、キャリードインタレストなどから成るファンド運営会社の報酬体系、及びそこで働くファンドマネージャーの報酬体系について、上図のテーマに沿って検討していきます。
なお、ここでいうファンドとは、バイアウトファンドやメザニンファンドに代表されるPEファンドを指します。
また、PEファンドのビジネスや業務などにご興味のある方は、以下の記事もご参照ください。
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ファンド運営会社の報酬体系
まず、PEファンドの運営会社(ファンド運営会社:GP)の報酬体系につき、検討していきます。
ファンド運営会社の報酬は、大きく次の2つに分類されます。
- 管理報酬:ファンドの運営・管理に対する報酬
- 成功報酬:ファンドの投資成績に対する報酬
以下、個別に検討していきましょう。
管理報酬とは
管理報酬(マネジメントフィー)とは、ファンドの運営・管理に対する報酬です。一般的には、ファンドの規模に応じて発生します。
ファンド運営会社において発生する人件費や各種費用は、管理報酬によって賄われています。
管理報酬の計算方法
管理報酬は、一般的にはファンド規模の2%程度と言われています。
管理報酬は、通常こちらの計算式で算出されます。
- 管理報酬=ファンド規模×料率
PEファンドの場合、運営期間によって「ファンド規模」の定義が変わるのが一般的です。
- ファンド運営期間10年(前半5年が投資期間、後半5年が回収期間の場合)
- 投資期間(前半5年間):管理報酬=出資約束金額(コミットメント金額)×料率
- 回収期間:(後半5年間)管理報酬=投資残高×料率
例えば料率2%とすると、ファンド規模が100億円の場合、前半5年間(投資期間)の管理報酬は年2億円です。一方、後半5年間(回収期間)は投資残高×2%となるため、回収が進んで投資残高が減っている場合や、投資期間で十分な投資ができず投資残高が積み上がらなかった場合、管理報酬は逓減していきます。
上述の通り、ファンド運営会社の人件費や各種経費は管理報酬によって賄われているのが一般的です。このため、投資期間を経て回収期間に入ると、ファンドの管理報酬が減少し、ファンド運営に支障を来たすケースがあります。このような事態を避けるべく、1号ファンドの投資期間が終了するタイミングで、2号ファンドを組成し、管理報酬の維持を図るケースが一般的です。
成功報酬
成功報酬とは、ファンドの投資成績に対する報酬です。
成功報酬は、次の2つに分けられます。
- 狭義の成功報酬:
ファンド運営会社に対し、ファンド運営の対価として支払われる報酬です。 - キャリードインタレスト(Carried Interest):
キャリードインタレストとは、ファンド運営会社がファンドに出資し、取得したファンド持分の権利として、ファンドの利益の一定割合を受け取る報酬(優先株式を保有する優先株主に対する優先配当のイメージ)です。
税務上の取り扱いが異なる(狭義の成功報酬は報酬、キャリードインタレストはキャピタルゲインなど)ため、それらを踏まえた上でいずれの形態とするかが選択されます。
成功報酬の計算方法
成功報酬の計算方法は、ウォーターフォールと呼ばれる支払順序に従って、ファンド出資者(LP投資家)やファンド運営会社(GP)に分配されます。
一般的なウォーターフォールは、次の通りです。
- ステップ1. ファンド出資者の元本充当
- ステップ2. ファンド出資者の優先分配(ハードルレート)
- ステップ3. ファンド運営会社の成功報酬(キャッチアップ)
- ステップ4. ファンド出資者・ファンド運営会社への残余財産の分配(アップサイド)
以下、個別に見ていきましょう。
ステップ1. ファンド出資者の元本充当
ステップ1は、ファンド出資者の元本充当です。ファンド出資者が拠出した金額につき、まずは分配が為されます。
ステップ2. ファンド出資者の優先分配(ハードルレート)
ステップ2は、ファンド出資者への優先分配です。ファンド運営会社がファンド出資者に対して提示したハードルレート(IRR15%や20%など)につき、ファンド出資者に対して優先して分配されます。
ステップ3. ファンド運営会社の成功報酬(キャッチアップ)
ステップ3は、ファンド運営会社の成功報酬です。ファンド運営会社は、ステップ1・2のファンド出資者への元本充当・優先分配を経て、ようやく成功報酬を受領することができます。
成功報酬の金額は、ファンド運営会社や運営するファンドごとに異なりますが、一般的には約20%です。
このファンド運営会社への成功報酬の支払のことを、キャッチアップと言います。
ステップ4. ファンド出資者・ファンド運営会社への残余財産の分配(アップサイド)
ステップ4は、ファンド出資者・ファンド運営会社への残余財産の分配(アップサイド)です。
ステップ1・2でファンド出資者、ステップ3でファンド運営会社への分配が終わった後、残りの残余財産については、ファンド出資者とファンド運営会社がそれぞれ受領するのが一般的です。
分配比率は、ファンド出資者が80%、ファンド運営会社が20%程度となるケースが多い様です。
このように、ファンド運営会社は、投資成績を上げれば上げるほど自らの成功報酬を増加させることができるアップサイドの余地があります。
成功報酬の支払タイミングとクローバック
次に、成功報酬の支払タイミングとクローバックについてです。
ファンド運営会社への成功報酬の支払タイミングとして、大きく次の2つに分けられます。
- ディールバイディール(Deal by deal)方式:
個別案件ごとに上記のウォーターフォールに従って分配。 - ホールファンド(Whole fund)方式:
全投資案件を通算して上記のウォーターフォールに従って分配。
前者のディールバイディール方式の場合、個別案件の投資回収ごとにウォーターフォールの計算に従って、ファンド運営会社に対し成功報酬が支払われます。
この場合、ファンドのポートフォリオ全てを回収し終わったタイミングでファンド全体についてのリターンを計算した際、ファンド運営会社に対し成功報酬を払い過ぎてしまっているというケースも生じます。
このような場合、クローバックと呼ばれる「ファンド運営会社からファンドへの成功報酬の返還」が実施されます。
PEファンド担当者の報酬体系
次に、ファンド運営会社における担当者の報酬体系についてです。
PEファンドの担当者の報酬(年収)は、一般的には次の3つから構成されます。
- ベース
- ボーナス
- キャリー(キャリードインタレスト)
以下、個別に検討します。
ベース
ベースは、固定給の部分です。例えば「ベース:年間1,000万円」などの場合、その金額が12ヶ月に分割されて支払われます。
ボーナス
ボーナスは、業績などに連動する部分です。基本的には年1回支払われます。
キャリー(キャリードインタレスト)
キャリーは、ファンドの投資成績に応じて数年に一度支払われる報酬です。自身が担当した個別案件の投資成績に応じて支払われるケースもあれば、ファンド全体の投資成績に応じて支払われるケースもあります。
PEファンドの担当者の報酬体系の特徴は、このキャリーにあると言えます。自身が関与したファンドの投資成績によっては、ベース・ボーナスに加え、多くのキャリーを得られる可能性もあります。
PEファンドはチャレンジングでやりがいがあり、自らの成長も見込める魅力的な職場であることに加え、キャリーに特徴付けられた報酬体系も優秀な人材を引き付けるひとつの要因となっています。
キャリアインキュベーション佐竹様に伺ったPEファンドの報酬体系の実際
PEファンドの報酬体系について、PEファンド業界に精通するキャリアエージェントであるキャリアインキュベーション株式会社の佐竹様にお話を伺いました。
Q: PEファンドのアソシエイトの年収水準はどのくらいでしょうか?
A: 一概には言えませんが、大きく外資系PEファンドと日系PEファンドに分けて考えると、アソシエイトでは次のようなイメージです。
- 外資系PEファンド アソシエイト
- ベース 1,000万円~1,300万円
- ボーナス ベースに対し50~150%
- 日系PEファンド アソシエイト
- ベース 800~1,100万円
- ボーナス ベースに対0~50%
アソシエイト以降は、タイトルが上がるごとにベース部分が1.2倍ぐらいのペースで増加するイメージです。シニアになればなるほど、ベース+ボーナスより成功報酬であるキャリーの方が収入に占める割合は増えていきます。
近年、多くのPEファンドでファンドレイズが好調に進んでいることもあり、採用には積極的です。また、ファンドの大型化もあり、近年少しずつベース給与も増加傾向です。
PEファンドの具体的な報酬体系について知りたい方は、キャリアインキュベーションの佐竹までご連絡ください。
なお、PEファンドへの転職者の多数を占める外資系投資銀行やコンサルティングファームの年収水準は以下の通りです。
- 外資系投資銀行 アソシエイト
- ベース1,100万円~2,000万円
- ボーナス ベースに対し0~100%
- コンサルティングファーム アソシエイト
- ベース 800万円~1,000万円
- ボーナス ベースに対し30%前後
単純な年収水準で比較すると、PEファンドは外資系投資銀行に比べて年収が高いわけではなく、むしろ転職によって年収が下がるケースもあります。(戦略コンサルティングファームからの転職であれば、同等水準というケースが多いです。)
それでもPEファンドに転職する方が多いのは、「企業買収や事業再生にプリンシパルの立場で関わることができる仕事のやりがい」とベースとボーナスとは別の仕組みである、「キャリーというPEファンド独自の報酬制度」が挙げられます。
Q: PEファンドではどのくらいのキャリーがもらえるのでしょうか?
A: キャリー(キャリードインタレスト)は、PEファンドの成功報酬の一種ですが、「PEファンドの利益につき、8割を投資家に分配、残りの2割を運営会社と運営会社メンバーで分ける」というのが一般的です。例えば、運営会社がどこかの大手資本系であれば、株主にキャリーの一部が渡ることになりますし、株主還元されずに内部留保として残しているパターンあります。
また、運営会社メンバーの配分に関しても、タイトルに応じて分配されるケースもあれば、ファンドのリターンへの貢献度に応じて分配されるケースもあります。ただ、この細かい計算方式はPEファンドごとにブラックボックスとなっているのが正直なところです。
タイトルが低い、ファンドリターンへの貢献度が低い、そもそもファンドの運用成績が悪いなどといった場合は、キャリーがもらえないというケースもあり得ます。一方、逆のケースでは、キャリーによって億超えの分配を得る事もあります。
キャリーも含むPEファンドの具体的な報酬体系について知りたい方は、キャリアインキュベーションの佐竹までご連絡ください。
Q: (2021年3月現在)PEファンドの採用状況はいかがでしょうか?
A: 2020年4月の緊急事態宣言時は一時的に採用活動が停滞しましたが、その後は回復傾向にあります。
PEファンドのファンドレイズは好調であり、それはすなわちドライパウダー(未投資残高=投資しなければならない金額)も積み上がっているということなので、積極的に新規案件をソーシングする必要があります。
一方、PEファンドの既存の投資先については、業種によってはコロナの影響を受け、経営のテコ入れが必要な先もあります。また、コロナ禍の影響が少ない投資先については、より前向きな企業価値向上など、PMI・バリューアップにも力を入れています。
このような観点から、財務三表モデルやLBOモデルを作れる投資銀行・FAS出身者や投資先管理・戦略立案などを担当できる戦略コンサルティングファームや商社出身者の採用にも積極的です。
一方、選考対象の幅は広がっているものの、採用のバーが下がったわけではありません。PEファンド側は、スキルや能力、経験をピンポイントで評価する傾向にあります。ただし、スキルや経験を有しているにも関わらず、準備不足で面接を通過することができない応募者の方も多くいらっしゃいます。
「なぜPEファンドなのか?」「自身の経験やスキルをどのように活かせるのか?」について、志望動機を深堀りする必要があります。加えて、財務モデルの作成などの実務的なテストが求められるケースもあります。PEファンドは採用枠に対して応募者数が多い人気職種であるだけでなく、採用プロセスも各社によって異なるといった特殊性が高い業界です。
PEファンドに応募するにあたっては、戦略的に準備を進めることが何より重要です。我々は、候補者様の魅力を最大限発揮すべく、キャリアの棚卸しのご相談相手となります。PEファンドへの転職を希望される方は、キャリアインキュベーションの佐竹までご連絡ください。
まとめ
今回はファンドの報酬体系につき検討しました。
主なポイントは、以下の通りです。
- PEファンドの報酬体系
- PEファンドの運営会社の報酬は、管理報酬と成功報酬から成る
- 管理報酬は、ファンド規模に料率を掛けて計算される。投資期間中は出資約束金額(コミットメント金額)、回収期間中は投資残高がファンド規模となる
- 成功報酬は、以下のようなウォーターフォールに従う
- ステップ1. ファンド出資者の元本充当
- ステップ2. ファンド出資者の優先分配(ハードルレート)
- ステップ3. ファンド運営会社の成功報酬(キャッチアップ)
- ステップ4. ファンド出資者・ファンド運営会社への残余財産の分配(アップサイド)
- 成功報酬の支払のタイミング(ディールバイディールまたはホールファンド)によっては、ファンド運営会社に成功報酬を先に払い過ぎるケースがあるが、その場合はクローバックにより返還される
- PEファンドの担当者の報酬体系
- 次の3つの報酬からなるのが一般的
- ベース
- ボーナス
- キャリー(キャリードインタレスト)
- キャリーがあるのがPEファンドの報酬体系の特徴
- 次の3つの報酬からなるのが一般的