目次
株式譲渡契約書とは、株式譲渡における諸条件を確定し、売り手と買い手との間で締結される契約書のことです。
法定の記載事項があるわけではないものの、実務上は、基本的な内容についての共通認識があります。
本記事では、株式譲渡契約書の基本的な記載事項について、その全体像を解説します。
《執筆者》
PEファンド・M&Aアドバイザリーの実務経験があるSOGOTCHA(ソガッチャ)スタッフが執筆しました。
株式譲渡契約書の基本項目
株式譲渡契約において一般的に定められる項目は次の9つです。
- 譲渡の合意
- 支払方法
- 取引実行
- 表明保証
- 誓約事項
- 取引実行の前提条件
- 補償
- 契約解除
- 一般条項
以下、各項目の概要について解説します。
株式譲渡契約書における「譲渡の合意」
まず、株式譲渡の基本的な内容を記載します。
主な内容としては、以下のようなものが挙げられます。
- 譲渡対象となる株式の発行会社(=対象会社)の社名と住所
- 譲渡対象となる株式の種類(普通株式なのか、譲渡制限株式なのか等)
- 譲渡対象となる株数
- 譲渡金額
- 株式移転の時期
また、ある一定の条件により価格調整を行う場合は、その旨も記載します。
例えば、通常株式譲渡契約締結から取引実行までは一定の期間が設けられるため、譲渡価格を取引実行時点の財務諸表の項目に基づき調整する場合などです。
株式譲渡契約書における「支払方法」
次に、支払方法についてです。
ここでは、多くの場合、株式譲渡対価の支払は銀行振込(送金)で為されることが規定され、それに基づいて振込先口座の情報、振込期日などを記載します。
株式譲渡契約書における「取引実行」
M&Aの実務において、取引実行のことをクロージングと呼びます。
クロージングに関する規定として、
- クロージングの時期
- クロージングの場所
- クロージングにおける各当事者の義務
等が挙げられます。
クロージングにおける各当事者の義務としては、
- 株式名簿の書換請求
- (株券発行会社の場合は)株券の引渡し
等を規定します。
株式不発行会社の場合、会社に対する株主名簿の書換請求は売り手と買い手が共同で行わなければならないため、株式譲渡契約において、株主名簿の書換請求を行う旨を記載しておくものです。
株券発行会社においても、売り手から買い手に株券を引き渡し、適切に権利の移転を完了させることを規定します。
株式譲渡契約書における「表明保証」
表明保証とは、表明保証の条項に記載された事項について、真実かつ正確であることを表明し、保証するものです。
売り手から買い手に対する表明保証の内容は、大きく次の4つに分類できます。それぞれ例を交えて記載します。
- 売り手自身に関する事項
- 法人として有効に存在していることなどの基本的事項
- 反社でないこと、反社との関係がないこと 等
- 譲渡対象の株式に関する事項
- 売主が実際に株主であること
- 担保権やその他の制約・負担が付されていないこと 等
- 対象会社に関する事項
- 法人として有効に存在していることなどの基本的事項
- 法令違反がないこと
- DDを通じて発見された検出事項以外に、簿外債務が無いこと
- DDを通じて発見された検出事項以外に、訴訟が無いこと 等
- 開示した情報に関する事項
- 開示した情報が正確であること
- 買い手が当該M&A取引を検討するために十分な情報を開示したこと 等
などがあります。
実務上最大の論点となるのは、3つ目の対象会社に関する事項についてです。
売り手としてはなるべく排除したいと考え、買い手としてはなるべく多く盛り込みたいと考えるためです。
売り手がなるべく表明保証の対象を限定したいと考える理由は、例えば「未払残業代はない」と表明保証していたにも関わらず労基署の調査などで未払残業代が指摘された場合、売り手は表明保証違反で損害賠償義務を負うリスクがあるためです。
また、通常買い手はDDを通じて対象会社の内容を検討・検証しているため、売り手からすると、「買い手はDDで調べているのだから、売り手として表明保証する事項はDDで調査できていない点に限定したい」と考えるからです。
一方、買い手からすると、DDで全てを調査できるわけではないので、不足分を表明保証でカバーできるよう、表明保証の対象をできるだけ多くしたいと考えます。
以上が売り手から買い手に対する表明保証の内容ですが、一方、買い手から売り手に対する表明保証としては、買い手自身に関する事項(法人として有効に存在していること、反社でないこと、反社との関係がないこと等)が規定されます。
なお、表明保証は英語でRepresentations and warrantiesと表記されるため、この略称でレプワラと呼ばれるケースもあります。
株式譲渡契約書における「誓約事項」
続いて、誓約事項についてです。
誓約事項とは、売り手や対象会社に一定の義務を課すものです。
誓約事項は、義務を履行するタイミングによって大きく次の2つに分けられます。
- クロージング前の義務を規定したプレクロージング事項
- クロージング後の義務を規定したポストクロージング事項
実務上、プレクロージング事項のことをプレクロ事項、ポストクロージング事項のことをポスクロ事項と呼びます。
プレクロ事項の例として、
- チェンジオブコントロール条項への対応
- 許認可の取得・届出
などの義務が挙げられます。
一方、ポスクロ事項の例として、
- 売り手である親会社から対象会社である子会社に対して提供されていたサービスの一定期間の継続提供義務
- 売り手の競業避止義務
などが挙げられます。
株式譲渡契約書における「取引実行の前提条件」
株式譲渡契約における取引実行の前提条件とは、その言葉通り、一定の要件を株式譲渡を実行するための前提条件として規定し、当該要件が満たされない限り、当該株式譲渡が実行されないものを意味します。
また、取引実行の前提条件は英語でConditions precedentと表記され、その略称からCP(シーピー)と呼ばれます。
CPの具体例としては、
- 許認可の取得
- 独占禁止法に関わる届出
などが挙げられます。
株式譲渡契約書における「補償」
続いて、補償条項についてです。
この条項では、主に損害賠償請求について規定します。
当事者のいずれかが表明保証や誓約事項、その他契約上の義務に違反した場合、もう一方の当事者が損害賠償を請求できるとするものです。
具体的に、
- 補償の対象となるケース
- 賠償金額の上限
- 請求できる期間
などを定めます。
また、DDにおいて検出された事項等で、クロージング時点で株式譲渡価格に反映させることができないものについて、その金額が確定したタイミングで売り手から買い手に対し、一定額を補償する旨を規定する場合もあります。例えば、未払残業代や訴訟による支払い等です。
なお、期間や金額が無制限な補償条項が規定されてしまうと、売り手としてはクロージング後かなりの期間が過ぎてから補償義務が生じる恐れもあるため、補償条項における期間や金額については、一定の上限が定められるのが一般的です。
株式譲渡契約書における「契約解除」
株式譲渡契約書では、契約を解除できる条件も規定しておくのが一般的です。
契約を解除できる条件の例としては、
- 買い手が譲渡対価を支払わない場合
- (株式発行会社において)売り手が株券を引き渡さない場合
- 表明保証に違反した場合
- 取引実行の前提条件(CP)の要件が満たされなかった場合
- プレクロ事項の要件が満たされなかった場合
- 売り手または買い手が倒産した場合
などがあります。
株式譲渡契約書における一般条項
上記各規定に加え、
- 秘密保持義務
- 完全合意
- 準拠法
などの一般条項も規定されます。
なお、完全合意条項とは、当該契約書以外の書面や口頭による合意は効力を持たないと規定するものです。
まとめ
さて、今回は株式譲渡契約書の内容について取り上げました。
なお、SOGOTCHAでは、オンラインでM&Aの相談を受け付けています。
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