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写真処理機器を祖業とするノーリツ鋼機は、デジタルカメラの普及に伴う業績悪化を受け、2009年以降、積極的なM&Aによる経営の多角化、及び事業の選択と集中を進めてきました。
現在は「No.1/Only1」「事業EBITDAマージン20%」「コア事業」などの軸から、音響機器及び部品・材料を基盤事業とし、今後は同分野の強化のためにM&Aが活用される方針です。
以下、ノーリツ鋼機の経営戦略とM&Aについて説明します。
なお、本記事の概要は、こちらの動画でもご覧頂けます。
ノーリツ鋼機とM&A
ノーリツ鋼機の特徴を表すのが、上図のグラフです。これは各年度におけるセグメント売上高の構成比ですが、2009年はイメージング事業のみ、2019年はヘルスケア、シニア・ライフ、部品・材料がメイン、そして、直近2022年第1四半期は、音響機器と部品・材料のみとなっています。ノーリツ鋼機は、このような事業構造の転換を、M&Aを通じて実現してきました。
M&Aによる事業ポートフォリオの変遷
ノーリツ鋼機は、1951年創業・1956年設立の元々は写真処理機器を祖業とする会社でした。しかし、デジタルカメラの発展により、写真処理機器を中心とする同社の主軸事業であるイメージング事業の業績は悪化し、ノーリツ鋼機自身の存亡の危機に瀕します。
そのような状況において、ノーリツ鋼機は、2009年以降、積極的なM&Aによる新事業への転換を図ります。
- ヘルスケア事業
2010年、遠隔医療支援事業を営むドクターネットを買収し、ヘルスケア事業に参入しました。その後、NSパートナーズやJMDC(旧日本医療データセンター)などを買収し、最盛期の2020年3月期には売上高260億円までヘルスケア事業が拡大しました。しかし、それに先立つ2019年、同事業の主力子会社であるJMDCを上場させ、2022年にノーリツ鋼機保有のJMDC株式の大半をオムロンに譲渡し、ノーリツ鋼機グループとしてヘルスケア事業の縮小方針を示しました。 - シニア・ライフ事業
2012年、シニア向け出版・通販事業を営むハルメク(旧いきいき)及び全国通販を買収し、シニア・ライフ事業に参入しました。その後、2017年に少額短期保険事業を営む日本共済を買収し、シニア・ライフ事業の強化を図るも、2020年に各事業会社を売却し、シニア・ライフ事業を縮小しました。 - 部品・材料事業
2015年、ペン先部材・コスメ部材などを製造するテイボーを買収し、部品・材料事業を開始しました。2019年にはコスメブラシメーカーのソリトンも買収し、テイボー・ソリトンの両社から構成される部品・材料事業は、2022年現在もノーリツ鋼機の「ものづくり」を支える基盤事業として存続しています。 - 創薬事業
2013年に日本再生医療を設立し、ノーリツ鋼機グループとして創薬事業を開始しました。その後、2016年に当時の東証マザーズ(現東証グロース市場)上場のキッズウェル・バイオ(旧ジーンテクノサイエンス)の株式の過半数を取得して子会社化し、創薬事業の強化を図りました。しかしその後、子会社化していたキッズウェル・バイオに対する持株比率を低下させ、現在は持分法適用関連会社に留まっており、またノーリツ鋼機が2013年に設立した日本再生医療も、2020年にキッズウェル・バイオに譲渡しており、創薬事業も縮小傾向にあります。 - イメージング事業
新規事業への積極的な参画が図られる中、祖業であるイメージング事業については、2016年に売却され、事実上の撤退に至りました。 - 音響機器事業
2020年、DJ機器メーカーであるAlphaTheta(旧パイオニアDJ)を買収し、音響機器事業に参入しました。その後、2021年に米国のワイヤレスイヤホンメーカーであるJLabを買収し、音響機器事業を強化しています。
以上のように、ノーリツ鋼機は、M&Aを通じて積極的に新規事業に参入する一方、既存事業や新たに取得した事業についても機動的に売却・撤退を行い、事業ポートフォリオを組み替えています。
M&Aの方向性
前節で見た通り、ノーリツ鋼機は、積極的なM&Aの実施により、新規事業の買収及び既存事業の売却を行っていますが、ここでは「どういう事業を買収/売却するのか?」について、以下のポイントに沿って検討します。
No. 1/Only1
第1に、No.1/Only1です。ノーリツ鋼機は、「No.1/Only1を創造し続ける事業グループ」をビジョンとして掲げており、M&Aを通じた選択と集中によって、それを実現しています。
上図は、ノーリツ鋼機の中期経営計画で示された図であり、ノーリツ鋼機の事業について、縦軸を収益性、横軸を業界内地位で整理したものです。ユニークで分かりやすい整理です。
ノーリツ鋼機は、上図の通り、世界トップクラス(すなわち、No.1/Only1)の事業のみに集中し、その他の事業は縮小・撤退しています。結果として、2022年時点では、「ものづくり」、すなわち、音響機器事業及び部品・材料事業がコア事業として位置付けられています。
定量的指標
第2に、定量的指標です。ノーリツ鋼機が2022年2月公表の中期経営計画で掲げた数値目標の中には、以下のような収益性指標が含まれています。
- ROE 8%以上
- ROIC 5〜6%
- 事業EBITDAマージン 20%
会社全体としてこれらの指標を実現するために、各事業においてはこれらの水準がひとつのメルクマールとなります。
なお、ノーリツ鋼機の過去の事業ポートフォリオの収益率について、セグメント利益率を基準に比較すると、上図の通り、利益率の高い事業のみが存続し、利益率の低い事業が売却対象となっていることが確認できます。(上図のセグメント利益率の利益指標は、2009〜2010年3月期は営業損益、2011〜2019年3月期はセグメント損益、2020年3月期〜2021年12月期は事業EBITDAを使用)
コア事業の強化
第3に、コア事業の強化です。ノーリツ鋼機の2022年2月公表の中期経営計画では、音響機器事業(AlphaTheta及びJLab)及び部品・材料事業(テイボー)から成るものづくり事業がコア事業と位置付けられており、今後のM&Aはコア事業を強化するためのものという方針が示されています。よって、今後は音響機器事業及び部品・材料事業に関連する事業がM&A対象となるものと推察されます。