目次
今回は、メザニンファイナンスのうち劣後ローンにスポットライトを当てたいと思います。
メザニンのもう一つの手法である優先株式と比較しながら、劣後ローンの特徴やメリット・デメリットを考えていきましょう。
また、シニアレンダーやメザニンレンダーなど、それぞれの立場によってどちらを選んだ方が有利なのかということが違ってきますので、その辺りもご紹介します。
《執筆者》
PEファンド・M&Aアドバイザリーの実務経験があるSOGOTCHA(ソガッチャ)スタッフが執筆しました。
メザニンファイナンスとは
メザニンファイナンスは、負債と純資産の間に位置し、ミドルリスク・ミドルリターンの特徴を持つファイナンスのことです。
1階部分にあたる純資産と、2階部分にあたる負債の間にあることから、中二階を意味するメザニンと呼ばれます。
なお、【図解】メザニンファイナンスとは?シニア・メザニン・エクイティの違いで詳しく解説していますので、まずはこちらの記事をご覧ください。
▽関連動画:メザニンファイナンスって??/メザニン(1)【M&Aのプロが解説!】
劣後ローンとは
劣後ローン(メザニンローン)とは、シニアローンに劣後するローンのこと。
すなわち、シニアローンに比べて元本の返済や利息の支払い、担保などが劣後しているローンのことです。
本記事では、メザニンファイナンスのうち、この劣後ローンについて掘り下げていこうと思います。
今回は次の10の特徴について考えてみましょう。
その際、メザニンのもうひとつの手法である優先株式と比較するとわかりやすいと思います。
ざっと挙げましたが、これから一つ一つ詳しく説明していきます。
①負債 or 純資産
この観点で劣後ローンと優先株式のどちらを選ぶかというのは、負債性資金と資本性資金のどちらを選ぶかということです。
この点においては、特にシニアレンダーの意向が重要視されます。
例えばファンドによる買収のシーンで、買収資金の不足分をメザニンで調達するとします。
その際、シニアレンダーから、財務バランス改善のため資本性資金(=優先株式)を求められるケースなどです。
この場合は、シニアレンダーから優先株式の利用を要請されます。
②債権 or 株式
この観点においては、メザニンレンダーのリスク低減という観点では劣後ローンの方がベター、リターン上昇の観点では優先株式の方がベターです。
その理由は、対象会社が破綻したなどといったワーストケースにおいては、負債である劣後ローンの方が、優先株式に比べて優先して回収できるからです。
一方、優先株式の場合、エクイティキッカー(新株予約権)が設定される場合もあるため、リターンが増加する可能性もあります。
ただし、昨今の金融市場は資金余剰の環境にあったため、エクイティキッカーはあまり設定されていなかったようです。
なお、リスクとリターンのどちらを重視するかは、メザニンの出し手であるメザニンレンダーの意向が反映されます。
③担保・保証
こちらの観点においては、メザニンレンダーにとっては劣後ローンの方が有利です。
劣後ローンにおいては、シニアレンダーに劣後する順位ではあるものの、担保や保証の設定ができるからです。
一方、優先株式においては原則これらは設定できません。ただし、普通株式対価の取得請求権により、株式担保類似の保全を図ることは可能です。
④会社法上の手続き
これはディール全体のスケジュールに影響を与える観点です。
そしてこの観点だけで考えると、関係する各レンダーやスポンサーにとって、劣後ローンの方がメリットがあります。
理由は、劣後ローンの方がスピーディーに手続きができるからです。
⑤債権者異議申述期間
こちらも、④会社法上の手続きと同様、ディール全体のスケジュールに影響を与えます。
優先株式では、回収原資を確保するために資本金・資本準備金の減資が行われます。
それに伴い、1ヶ月以上の債権者異議申述期間が発生します。
このため、よりスピーディーに進めることができる劣後ローンの方が、各レンダー・スポンサーにとってメリットがあります。
⑥損金算入
これは各レンダー・スポンサーにとって重要な観点で、劣後ローンの方が良いと言えます。
劣後ローンの支払利息は損金に算入されますが、優先株式の配当は算入されません。
すなわち、劣後ローンの方が税務メリットを享受することができます。
これは、対象会社自身にとってもメリットですが、対象会社のキャッシュ残高などに影響するため、資金を提供しているレンダーやスポンサーにとってもメリットです。
⑦登録免許税
こちらも、上記⑥と同様に対象会社のキャッシュ残高に影響するため、各レンダー・スポンサーに関係します。
そして、登録免許税が発生しない劣後ローンの方が有利です。
優先株式においては、優先株式の発行に伴い増加する資本金に対して登録免許税が課されるからです。
劣後ローンには、登録免許税は発生しません。
⑧利息制限法
この観点では、対象会社の業績が良い場合はメザニンレンダーにとって優先株式の方が良いでしょう。
これは、メザニンのリターンに影響する観点です。
劣後ローンは利息制限法の適用を受けるため、年利15%が上限となります。
一方、優先株式は利息制限法の適用を受けません。※ただし、後述の分配可能額による制限はあります。
よって、相応の分配可能額がある場合は、優先株式の方がより高いリターンを生み出す可能性があるのです。
⑨分配可能額
この観点では、対象会社の業績が芳しくない場合はメザニンレンダーにとって劣後ローンの方が良いでしょう。
こちらも、メザニンのリターンに影響する観点です。
例えば、対象会社の業績不芳により分配可能額が減少した場合、優先株式は分配可能額の制限を受けるため、リターンが減少するリスクがあるからです。
この点、劣後ローンは分配可能額の制限を受けません。
⑩貸金業登録
もしメザニンレンダーが貸金業登録を行っていない場合は、劣後ローンは提供できません。
劣後ローンは「貸付」にあたるためです。
一方、優先株式は貸付ではないため、貸金業登録は必要ありません。
▽関連動画:メザニンの劣後ローンと優先株式の違いって??①前編/メザニン(4)【M&Aのプロが解説!】
▽関連動画:メザニンの劣後ローンと優先株式の違いって??②後編/メザニン(5)【M&Aのプロが解説!】
まとめ
さて、今回は劣後ローンの特徴について、優先株式と比較しながらご紹介しました。
シニアレンダーやメザニンレンダーなどの立場や、それぞれのディールの状況によってどちらを選んだ方が良いのかというのは違ってきます。
迷ったら専門家へのオンライン相談なども上手に活用しながら、より良いディールにしてください。