M&Aで従業員はどうなる?株式譲渡と事業譲渡の労務関連の論点を解説!

M&Aで従業員はどうなる?株式譲渡と事業譲渡の労務関連の論点を解説!

M&Aで従業員はどうなる?株式譲渡と事業譲渡の労務関連の論点を解説!

M&Aで会社や事業の売却を考えている人にとって、社員や従業員に納得してもらえるかどうか、また、買い手に引き続き雇用してもらえるかどうかなど、非常にセンシティブで重要なポイントだと思います。

そこで今回は、労働契約の承継にかかる部分で、

  • 個別同意の要否
  • 承継の対象となる従業員

の2点をメインに、M&Aの代表的なスキームである株式譲渡と事業譲渡を比較しながら、わかりやすく解説していきます。

《執筆者》

PEファンド・M&Aアドバイザリーの実務経験があるSOGOTCHA(ソガッチャ)スタッフが執筆しました。

株式譲渡と事業譲渡の定義

株式譲渡と事業譲渡

本題に入る前に、株式譲渡と事業譲渡の違いを整理しておきましょう。

よく理解しているという方は次のセクションから読み始めてください。

さて、そもそも株式譲渡と事業譲渡はどう違うのでしょうか。

  • 株式譲渡とは、売り手から買い手に対し、株式を譲渡すること
  • 事業譲渡とは、売り手から買い手に対し、事業を譲渡すること

すなわち、株式譲渡と事業譲渡を比較した時、最も大きな違いはその取引対象です。

ここで、それぞれ売り手が異なるという点もポイントです。

  • 株式譲渡の取引対象は、株主が保有する株式=売り手は株主
  • 事業譲渡の取引対象は、会社が保有する事業=売り手は会社

この前提を頭の片隅に置きながら読み進めてください。

▽関連動画:株式譲渡の概要とは??/M&Aスキームを考える!株式譲渡①

▽関連動画:事業譲渡の概要とは??/M&Aスキームを考える!事業譲渡①

▽関連動画:株式譲渡と事業譲渡の比較!(3)取引対象の違いは??

株式譲渡と事業譲渡における従業員の個別同意の要否

従業員の個別同意の要否

さて、株式譲渡と事業譲渡の違いをおさらいしていただいたところで、まずは従業員一人一人の同意が必要かどうか?という点について見ていきましょう。

  • 株式譲渡・・・個別同意不要
  • 事業譲渡・・・個別同意必要

以下、スキームごとに詳しく解説します。

株式譲渡

株式譲渡の場合、労働契約を承継する際に従業員一人一人の同意は不要です。

それは、株式譲渡が実施されても従業員が所属する会社は変わらないから。

従業員も含めて、会社ごとそのままそっくり新たな買い手のもとに移転します。

事業譲渡

一方、事業譲渡の場合は、従業員の個別同意が必要です。

その理由として、次のようなものが挙げられます。

  • 待遇が変わる可能性があるため
  • 譲渡対象の事業に関わる従業員が対象になるので、その線引きを明確にするため

まず、待遇について詳しく解説します。

事業譲渡において、従業員は「元の会社を退職して、新たな会社(買い手側の会社)に再就職する」という形になります。

所属する会社が変わるので、新たな会社の待遇に納得しないと働き続けてもらえません。

従業員にとっては生活に直結した問題ですので、個々人の同意が必要だというわけです。

次に、線引きを明確にするためということについてです。

事業譲渡においては、譲渡対象となる資産や負債を個別に特定しますが、同様に、従業員についても個別に特定します。

ここで、「譲渡される事業」と「譲渡されず元の会社に残る事業」の両方に関わっている従業員については、従業員本人が納得し、同意した上で転籍した方が良さそうです。

すなわち、事業譲渡においては従業員の個別同意が必要になります。

なお、実務的には個々の従業員から事業譲渡に伴う転籍について同意書を取得します。

▽関連動画:株式譲渡と事業譲渡の比較!(11)労働契約の承継の違いは??①

株式譲渡と事業譲渡の対象となる従業員

承継の対象となる従業員

M&Aで会社や事業を売却する際、全員引き続き雇用してもらえるのかどうかというのは、とても気になるポイントだと思います。

まとめると、以下の通りです。

  • 株式譲渡・・・全員承継される
  • 事業譲渡・・・買い手が、承継対象となる従業員を選択する

それではこちらも、スキームごとに詳しく見ていきましょう。

株式譲渡

個別同意のところで確認したとおり、株式譲渡では従業員も含めて会社ごとそのままそっくり新たな買い手のもとに移転します。

つまり、今会社に所属している従業員の全員が、新たな買い手のもとでまた一緒に働けるということです。

逆に買い手の立場からしてみると、引き継ぎたい従業員を選択することができない、とも言えます。

事業譲渡

事業譲渡の場合は、承継対象となる従業員は買い手によって選択されます。

その理由は、繰り返しになりますが、事業譲渡の場合は従業員は「元の会社を退職して、新たな会社(買い手側の会社)に再就職する」という形になるため。

つまり、買い手に採用の自由があるため、対象従業員が選択されるということです。

▽関連動画:株式譲渡と事業譲渡の比較!(12)労働契約の承継の違いは??②

事業譲渡における有給休暇や退職金の取り扱い

有給休暇や退職金の取り扱い

ここで、事業譲渡に際してよく論点となる有給休暇や退職金の承継についても確認しておきましょう。

  • 株式譲渡・・・そのまま引き継がれる
  • 事業譲渡・・・交渉によって決定

株式譲渡の場合は、上述の通り所属する会社は変わずそのまま引き継がれるので、これらの点は問題になりません。

一方、事業譲渡の場合は、元の会社を退職して新しい会社に就職する形になるため、未だ消化していない有給休暇や退職金をどうするのかという点、いかにも論点になりそうです。

そしてこれらは買い手との交渉によって決められるため、次のような判断があり得ます。

  • 未消化の有給消化を引き継ぐ
  • 未消化の有給消化は引き継がない
  • 退職金を元の会社で精算する
  • 退職金を元の会社で精算せずに、新会社で承継する

なお、事業譲渡においては従業員の個別同意が必要になると、先ほど確認しました。

よって、従業員の同意を得られるかということも意識して、これらの論点に対処すべきでしょう。

株式譲渡と事業譲渡、どちらを選べばいいのか?

さて、ここまで株式譲渡と事業譲渡を労務の観点から比較してきました。

それぞれにメリットとデメリットがありますので、買い手側の立場も含め、ここで一旦整理しておきましょう。

株式譲渡と事業譲渡、どちらを選べば良いのか?(労務の観点から)

まとめ

さて、今回はM&Aの代表的スキームである株式譲渡と事業譲渡を比較しながら、労働契約の承継がどうなるのか解説しました。

今回の観点は2つ。まとめると、以下の通りです。

  • 従業員の個別同意・・・株式譲渡は不要、事業譲渡は必要
  • 対象従業員・・・株式譲渡は全員、事業譲渡は買い手によって選択される

今回解説した労働契約の件も含め、様々な条件を見比べながらベストなスキームを選択することになると思います。

株式譲渡と事業譲渡の違いについて、こちらの再生リストにまとめていますのでよかったら参考にしてください。

▽関連動画再生リスト:株式譲渡と事業譲渡の比較(全般)

▽関連動画再生リスト:株式譲渡と事業譲渡の比較(法務・会計税務)

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