目次
本シリーズでは、地方銀行各行のDX戦略について、分析・解説します。
千葉銀行・横浜銀行・京都銀行に続き、第4回目は、静岡銀行のDX戦略についてです。
《執筆者》
曽我 義光/株式会社マーブル 取締役
ソフトウェア開発エンジニアを経て、外資系証券会社の不動産ファンド部門にてソフトウェア開発責任者として開発全体を統括。その後、投資ファンド運営会社でIT部門の責任者を担当し、情報分析サービスのシステム開発PM業務に従事。2020年株式会社マーブルに参画。
DX戦略の方針
静岡銀行のDX戦略は、2020年4月策定の中期経営計画及び2021年3月期決算説明会資料で言及されています。
これらの資料によると、静岡銀行のDX戦略の方針は、次のようにまとめられます。
- DX戦略の方針(目指すべき姿)
- ビジネスモデルの変革
- ナレッジ・ノウハウの顧客還元
- DXの5つの重点分野
- 非対面チャネルの強化(顧客基盤拡大)
- 法人取引先のチャネル拡充(新たな収益獲得)
- グループ一体でのデータ活用(グループ経営強化)
- 集中部署業務のデジタル化(コスト削減・生産性向上)
- デジタル人財の育成(人財育成)
DX戦略のマッピング① dXの枠組みでの整理
静岡銀行のDX戦略について、デロイトトーマツグループが提唱するdX(Business Transformation with Digital。最初のdは小文字)の枠組みに基づいて整理します。
ここでは、静岡銀行の「DXの5つの重点分野」についてマッピングします。
- 非対面チャネルの強化(顧客基盤拡大)
具体的な施策として、スマホアプリの刷新やコンタクトセンターの構築が挙げられています。こちらは、事務手続のデジタル化による「社内業務の自動化(業務生産性向上)」や顧客データの集積・活用による「バリューチェーンのデジタル化(業務付加価値向上)」の側面もありますが、従来の対面型営業から非対面チャネルへのシフトという点を踏まえ、「既存事業のビジネスモデル変革」に位置付けられるかと考えます。 - 法人取引先のチャネル拡充(新たな収益獲得)
具体的な施策として、法人ポータルサイトの構築が掲げられています。法人ポータルサイトの内容や機能にもよりますが、千葉銀行や横浜銀行の法人ポータルのように、顧客コミュニケーションやソリューション提案、オンラインレンディングの機能も有しているとすると、「既存事業のビジネスモデル変革」に位置付けられるかと考えます。 - グループ一体でのデータ活用(グループ経営強化)
具体的な施策として、データの共同利用によるマーケティング強化や効率的なグループ連携が掲げられています。当該方針に基づいて、グループ各社が保有するデータの一元管理や利活用が進む場合、従来に比べて業務の効率化が進むと考えられるため、「社内業務の自動化(業務生産性向上)」に位置付けられるかと考えます。 - 集中部署業務のデジタル化(コスト削減・生産性向上)
具体的な施策として、ペーパーレス化やRPAの活用が掲げられています。こちらは、「社内業務の自動化(業務生産性向上)」に位置付けられるかと考えます。 - デジタル人財の育成(人財育成)
具体的な施策として、デジタルネイティブ世代の積極的な活用や外部人財活用・ノウハウ吸収が挙げられています。これらは、「デジタルDNAの強化(組織と人財)」に位置付けられるかと考えます。
DX戦略のマッピング② 顧客・銀行軸と売上・費用軸での整理
次に、静岡銀行のDX戦略について、顧客・銀行軸(横軸)と売上・コスト軸(縦軸)からなるマトリックスで整理します。
- 顧客・銀行軸(横軸)
DX戦略が主に顧客向けか銀行向けか、あるいはその両者に関わるものかを表しています。 - 売上・コスト軸(縦軸)
DX戦略が主に売上高の増加に寄与するか、コストの削減につながるか、あるいはその両面の効果が期待できるかを表しています。
以下では、個別のDX施策について、重要度が高いと思われるものをピックアップして説明します。なお、本記事で取り上げていない施策については、前述の「2021年3月期決算説明会資料」にて詳細をご確認ください。
- スマホアプリ
- 概要:
日々の取引はスマホで完結するよう、機能強化やUI改善などが進められています。また、将来的には非対面におけるメインチャネル化を意図しています。 - 売上高増加:
非対面チャネルのニーズを取り込むことで、既存顧客の維持やアプリ利用の増加による顧客当たり売上高の増加、あるいは新規顧客の獲得につながるものと考えられます。 - コスト削減:
店頭で行われていた事務がスマホで完結することで、業務時間や店舗人員の削減などの事務コスト(ひいては人件費)の低減につながるものと考えられます。
- 概要:
- デジタルマーケティング
- 概要:
AIを利用して、各顧客へのパーソナライズされた情報のタイムリーな提供が意図されています。2021年度にAIによるデータ分析やコンタクトセンターとの連携などが進められ、2022年度には金融に限らないライフスタイルに応じた情報提供や地域企業とのマーケティング連携が想定されています。 - 売上高増加:
AIによるデータ分析が進めば、最適な商品の最適なタイミングでの提案を実現できると考えられるため、売上高の増加につながるものと想定されます。
- 概要:
- 各種システム更改
- 概要:
銀行内の各種システムを更改し、業務効率化を図ることで、各行員がコンサルティング業務を行うための時間確保を想定しています。 - 売上高増加:
コンサルティング業務のための時間が確保されることで、ソリューションの検討時間や営業活動の増加により、売上高増加につながるものと考えられます。 - コスト削減:
業務効率化が実現されることで、業務時間や人員の削減などの事務コスト(ひいては人件費)の低減につながるものと想定されます。
- 概要:
まとめ:DX戦略の全体像
最後にまとめです。本記事では、静銀行のDX戦略の目的及び具体的なDX施策について整理しました。DX戦略の全体像は、上図の通り整理できます。