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JSRは、合成ゴムの国産化を目指した国策会社日本合成ゴムとして誕生しましたが、合成樹脂、半導体部品やディスプレイ、バイオ医薬品など、積極的な事業変革を進めています。
その過程で、コア事業の強化手段として、またノンコア事業への対応手段として、M&Aが積極的に活用されています。
以下では、JSRの経営戦略とM&Aについて整理します。
また、本記事の概要は、こちらの動画でもご覧頂けます。
JSRはどんな会社か?
JSRの歴史は、事業変革の歴史と言えます。上図は、JSRの主要事業の推移を表した図です。JSRは、合成ゴムの国策会社として、当初は合成ゴム、合成樹脂などの石化系事業からスタートしました。その後、1977年に半導体市場に参入し、デジタルソリューション事業を開始、また、2012年にはJSRライフサイエンスを設立し、バイオ医薬品などのライフサイエンス事業にも参画しました。一方、2022年には祖業であり、石化系事業のひとつである合成ゴム事業(エラストマー事業)を譲渡し、事業の選択と集中を進めています。
JSRの概要
JSRは1957年、合成ゴムの国産化を目的として、政府4割・民間6割の出資により、日本合成ゴムとして設立されました。1964年には、現在も継続している合成樹脂の製造を開始します。その後、1969年に完全民営化されますが、それに続く1970年代、オイルショックによる原油価格上昇と国内景気の悪化に伴う販売不振により、合成ゴムや合成樹脂などの石化系事業だけではなく、新規分野での経営の多角化を進めます。この頃の経験が、事業変革に積極的に取り組むJSRのチャレンジ精神を培ったのではないかと思われます。
オイルショックの最中、1977年に半導体市場に進出。同分野は、その後大きく成長し、現在のJSRの事業の柱であるデジタルソリューション事業へと成長しています。
また、2012年にはバイオ医薬品などのライフサイエンス事業に進出。同分野ではM&Aを積極的に活用することで、事業規模を拡大しています。
JSRの事業内容
2021年時点で、JSRの事業は、主にこちらの4つから構成されていました。
- 石化系事業① エラストマー事業(合成ゴム)
- 石化系事業② 合成樹脂事業
- デジタルソリューション事業(半導体材料・ディスプレイ材料・エッジコンピューティング)
- ライフサイエンス事業(バイオ医薬品)
しかし、業績不芳が続いていたエラストマー事業については、2022年にENEOSに売却され、2022年7月現在では、合成樹脂事業、デジタルソリューション事業、ライフサイエンス事業の3つの事業から構成されています。
JSRの経営戦略とM&A
JSRの経営戦略におけるM&Aの位置付けについて整理します。
こちらは、JSRの事業ポートフォリオの2021年3月時点の実績及び2024年3月時点の予想図を示したものです。こちらの図の通り、JSRは、デジタルソリューション事業のひとつである半導体材料、及びライフサイエンス事業をコア事業とし、エラストマー事業及び合成樹脂事業から成る石化系事業は構造改革の対象としています。実際、2022年にはエラストマー事業をENEOSに譲渡し、同事業から撤退しました。
JSRにおいては、コア事業の強化、及びノンコア事業からの撤退の手段として、M&Aが活用されています。
コア事業の強化
コア事業であるデジタルソリューション事業及びライフサイエンス事業においては、以下のような形でM&Aが活用されています。
- デジタルソリューション事業でのM&A
- 2021年、半導体材料のEUVメタルレジストのパイオニアであるInpria Corporationを事業価値約560億円で買収。
- ライフサイエンス事業でのM&A
ライフサイエンス事業においては、2012年の同分野参画以降、積極的にM&Aを実施し、現在は医薬品開発プロセスにおける基礎研究、非臨床、臨床試験(治験)、承認・商業化までの各段階をカバーしています。- 2015年、バイオ医薬品開発・製造受託のKBI Biopharma, Inc.を買収。
- 2015年、JASDAQ上場の臨床検査薬・基礎研究試薬製造メーカーの医学生物学研究所を子会社化(上場は維持)。
- 2017年、細胞株構築受託のSelexisを買収。
- 2018年、創薬探索開発受託のCrown Bioscience Internationalを買収。
- 2021年、子会社化していた医学生物学研究所を株式公開買付(TOB)により完全子会社化(非公開化)。
ノンコア事業からの撤退
ノンコア事業と位置付けられ、構造改革の対象となった石化系事業においては、祖業である合成ゴム事業であるエラストマー事業が、2022年にENEOSに企業価値1,150億円で売却されました。
エラストマー事業は、上図の通り、売上高はXXX、利益はXXXで推移していたことから、祖業であるにも関わらず、売却という判断に至りました。