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ウッドショックとは、2021年3月頃から顕著となった木材そのものの不足、または木材不足に伴う木材価格の上昇のことを意味します。
木材価格の上昇は、世界的な住宅需要の増加に起因した木材そのもののコスト(材料コスト)の上昇と、コンテナ不足に起因した世界的な物流コストの上昇が原因と捉えることができます。
ウッドショックにより、住宅価格の上昇や住宅供給の減少、また、住宅業界においては建材卸やハウスメーカー・工務店の利益減少などが見込まれるのではないかと推察されます。
本記事では、金融パーソンが知っておくべきトレンドワードであるウッドショックについて、その原因と影響について解説します。
《執筆者》
高橋 祐未/株式会社マーブル 代表取締役社長
1990年宮城県仙台市生まれ。東北大学理学部数学科卒業。2013年より都内で事業会社・投資ファンド運営会社を経て、2019年株式会社マーブルを設立。
ウッドショックの原因
冒頭で述べた通り、ウッドショックとは、木材そのものの不足、あるいは木材不足に伴う木材価格の上昇を意味します。
ここでは、「日本国内の木材価格の上昇」にフォーカスし、こちらの2つの観点から、ウッドショックの原因を検討していきます。
- 流通過程
- 第1段階:海外からの流通過程
- 第2段階:国内の流通過程
- 木材価格の構成要素
- 材料コスト
- 物流コスト
- その他
第1段階:海外からの流通過程
日本で流通している木材の内、約6割は海外からの輸入木材です。現在、海外からの輸入木材が値上がりしており、十分な量を確保できていないことが、国内の木材不足、ひいては木材価格の上昇を招いています。
ここでは、輸入木材の木材価格の上昇要因について、木材価格の構成要素である「材料コスト」と「物流コスト」の観点から整理します。
木材価格の上昇要因① 材料コストの上昇
まず、木材そのもののコスト、すなわち、材料コストについてです。材料コストの上昇要因として、需給バランスの観点から整理すると、次のようなものが挙げられます。
- 木材需要の増加① リモートワークによる郊外住宅
コロナ禍でのリモートワークの増加を背景に、アメリカなどを中心に、郊外での一戸建て住宅に対する需要が拡大。 - 木材需要の増加② 金融緩和による低水準の住宅ローン金利
コロナ対策としての低い政策金利の下、低水準の住宅ローン金利による住宅需要の下支え。 - 木材供給の限定① カナダの虫害
世界の木材の輸出大国であり、日本にとっても木材の最大の輸入国であるカナダにおいて、松食い虫の被害のため、供給が限定的。 - 木材供給の限定② コロナ禍での生産抑制
当初、コロナ禍の影響による住宅需要の減少を想定し、木材生産を抑制していたため、供給が限定的。
以上のように、木材に対する需要は増加する一方、木材の供給は限定的であるため、需給関係から木材価格が上昇していると整理できます。
木材価格の上昇要因② 物流コストの上昇
次に、物流コストです。昨年の後半以降、世界的なコンテナ船のスペース不足(コンテナ不足)に起因した、海運・航空物流コストの上昇が問題となっています。
物流コストの上昇要因について、物流に対する需給の観点から整理すると、次のようなものが挙げられます。
- 物流需要の増加 巣ごもり消費による購買の増加
アメリカを中心に、巣ごもり消費により玩具・家具・家電などの輸入が増加。 - 物流供給の減少① コンテナそのものの不足
2019年の米中貿易摩擦の悪化、及び2020年のコロナ禍における先行き懸念並びに工場稼働率の低下により、コンテナそのものの生産が低迷。 - 物流供給の減少② 港湾でのコンテナの滞留
上記のように、アメリカなどで巣ごもり消費による輸入が増加する一方、コロナ禍により港湾労働者や運送ドライバーの稼働が減少。結果、港湾でのコンテナ処理が遅延し、港湾倉庫でのコンテナ滞留やコンテナ船の沖待ちなどが発生。 - 物流供給の減少③ 船便そのものの減少
コンテナ船の沖待ちなどにより、コンテナ船の遅延が発生し、コンテナ船の船便そのものが減少。
以上のように、物流に対する需要の増加に対し、「コンテナ不足」と呼ばれる物流供給の停滞・減少により、物流コストが上昇していると整理できます。
第1段階(海外からの流通過程)の木材価格の上昇要因 まとめ
このように、海外からの輸入木材は、材料コスト(木材そのもののコスト)及び物流コストの上昇により、木材価格が上昇していると整理することができます。
第2段階:国内の流通過程
続いて、国内の流通過程における木材価格の上昇要因について、需給バランスの観点から整理します。
- 木材価格の上昇 輸入木材の価格上昇
第1段階(海外からの流通過程)で見た通り、材料コストと物流コストの上昇により、国内に輸入された時点で、従来よりも木材価格が上昇している。 - 木材供給の減少 輸入木材の高騰による買い負け
輸入木材の高騰により、国内の木材需要に見合った量を確保できていない状況。
以上のように、国内の流通過程では需要に見合った供給が為されておらず、輸入木材・国産木材の区別なく木材の取り合いとなり、結果として木材価格の上昇を招いていると整理することができます。
ウッドショックの影響
続いて、ウッドショックの影響について検討します。
木材価格の上昇は、住宅業界(新築・リフォーム)や家具業界を中心に影響を与えると考えられますが、ここでは住宅業界にフォーカスし、業界の商流図に沿って影響を検討していきます。
住宅業界においては、主にこちらの2つの影響が考えられます。
- 住宅業界企業の利益の減少 → 住宅価格の上昇
- 住宅業界企業の売上高の減少 → 住宅供給の減少
以下、個別に検討していきます。
- 建材卸・プレカット加工会社:①利益の減少、②売上高の減少
- ①利益の減少
建材卸やプレカット加工会社の立場からすると、木材価格の上昇は、仕入価格及び販売価格の上昇につながります。仕入価格の上昇をうまく販売価格に転嫁できれば、自社の利益を確保することはできます。一方、販売先との力関係で、仕入価格の上昇を販売価格に十分に転嫁できない場合、自社の利益の減少につながります。 - ②売上高の減少
建材卸・プレカット加工会社にとってより深刻なのは、木材そのものを確保できないリスクです。この場合、販売する製品そのものが無くなってしまうため、売上高を確保できないことになります。
- ①利益の減少
- ハウスメーカー・工務店:①利益の減少、②売上高の減少
- ①利益の減少
ハウスメーカー・工務店の立場からすると、木材価格の上昇は、材料費の上昇につながります。材料費の上昇を住宅販売価格に転嫁することができれば、自社の利益を確保することができますが、転嫁できない場合、自社の利益の減少につながります。 - ②売上高の減少
一方、ハウスメーカーや工務店にとってより深刻な影響は、木材価格に関わらず、木材そのものを確保できないリスクです。強度などの問題から、国産木材による代替が難しい輸入木材の場合、材料確保ができないことには受注もままならず、売上を立てられません。
- ①利益の減少
- 住宅そのもの:①住宅価格の上昇、②住宅供給の減少
- ①住宅価格の上昇
住宅価格への影響を考える場合、次の2つのルートから、住宅価格の上昇につながるのではないかと考えられます。- ①-1. 材料価格上昇による住宅価格の上昇
木材価格の上昇は、材料費の上昇であり、ひいては住宅価格の上昇につながり得ます。
一方、建物全体で捉えた場合、木材が占める材料費の割合はあくまで一部に過ぎないとの見方もあり、住宅価格への影響は限定的な可能性もあります。 - ①-2. 住宅供給減少による住宅価格の上昇
後述の住宅供給の減少の結果、限られた供給に対して住宅需要の方が大きい場合、住宅価格が上昇する可能性があります。
- ①-1. 材料価格上昇による住宅価格の上昇
- ②住宅供給の減少
住宅供給への影響を考える場合、次の2つのルートから、住宅建築の減少につながるのではないかと考えられます。- ②-1. 価格上昇による住宅需要の減少
材料である木材価格の上昇が住宅価格の上昇につながる場合、住宅需要の減少につながるものと推察されます。 - ②-2. 材料不足による住宅供給の減少
強度や材質の問題から特定の木材を使用する必要がある場合、その木材の確保ができない期間が続けば、供給側の問題から住宅供給が減少するリスクもあるものと考えられます。
- ②-1. 価格上昇による住宅需要の減少
- ①住宅価格の上昇
まとめ
今回は、ウッドショックの原因及び影響について、整理しました。
本記事の主なポイントをまとめると、こちらの通りです。
- ウッドショックの原因
- 第1段階:海外からの流通経路
- 材料コストの上昇
- 木材需要の増加① リモートワークによる郊外住宅
- 木材需要の増加② 金融緩和による低水準の住宅ローン金利
- 木材供給の限定① カナダの虫害
- 木材供給の限定② コロナ禍での生産抑制
- 物流コストの上昇
- 物流需要の増加 巣ごもり消費による購買の増加
- 物流供給の減少① コンテナそのものの不足
- 物流供給の減少② 港湾でのコンテナの滞留
- 物流供給の減少③ 船便そのものの減少
- 材料コストの上昇
- 第2段階:国内の流通経路
- 木材価格の上昇 輸入木材の価格上昇
- 木材供給の減少 輸入木材の高騰による買い負け
- 第1段階:海外からの流通経路
- ウッドショックの影響
- 建材卸・プレカット加工会社:①利益の減少、②売上高の減少
- ハウスメーカー・工務店:①利益の減少、②売上高の減少
- 住宅そのもの:①住宅価格の上昇、②住宅供給の減少