マルチプル法とは?メリット・デメリットを解説(EV/EBITDA)

マルチプル法とは?メリット・デメリットを解説(EV/EBITDA)

マルチプル法とは?メリット・デメリットを解説(EV/EBITDA)

M&Aの価格は、実務的にはどのように決まるのでしょうか。

M&Aの価格の考え方のことを、一般的には「企業価値評価」や「株式価値評価」といいます。

理論的には、インカムアプローチ・マーケットアプローチ・コストアプローチの3つに分類され、体系的に整理されています。

一方、M&Aの現場で頻繁に用いられているのは、マルチプル法(EV/EBITDA)と年買法(修正純資産+のれん)の2つです。

これらの2つの手法は、直感的な分かりやすさと計算の簡易さから、M&A実務において一定の地位を確立しています。

本記事では、これらの2手法のひとつであるマルチプル法の考え方やメリット・デメリットにつき、概要及びポイントをまとめました。

なお、本記事の内容はこちらの動画でもご覧いただけます。

《執筆者》

PEファンド・M&Aアドバイザリーの実務経験があるSOGOTCHA(ソガッチャ)スタッフが執筆しました。

マルチプル法(EV/EBITDA)の概要とメリット・デメリット

マルチプル法(EV/EBITDA)の概要とメリット・デメリットM&Aにおける価格の算定手法のひとつであるマルチプル法の概要及びメリット・デメリットにつき、以下のテーマに沿って検討していきます。

なお、今回取り上げるマルチプル法は、M&Aの株式価値の算定で最も一般的であるEV/EBITDAマルチプル法を前提としている点、ご留意ください。

マルチプル法とは

対象会社の事業価値や株式価値を計算する手法まず、EV/EBITDAに限らず、マルチプル法とは、対象会社と類似する上場会社(類似会社)を選定し、類似会社の財務指標からマルチプル(倍率)を算定し、対象会社の財務指標とマルチプルから、対象会社の事業価値や株式価値を計算する手法のことです。

マルチプル法は、企業価値評価の書籍などでは、「類似会社(企業)比較法」や「倍率法」「乗数法」などの名称で紹介されているのが一般的です。

マルチプル法では、財務指標として何を利用するかによって、いくつかの種類がありますが、M&Aで最も一般的に使われているのは、事業価値(EV)とEBITDAをマルチプルの指標として利用したEV/EBITDAマルチプル法です。

なお、EBITDAは、簡易的には「償却前営業利益」を意味する指標ですが、詳細については後述します。

狭義のマルチプル法(EV/EBITDAマルチプル法)

狭義のマルチプル法(EV/EBITDAマルチプル法)

続いて、M&Aの実務で一般的に用いられているEV/EBITDAマルチプル法につき、見ていきます。

M&Aの実務で「マルチプル法」という場合、通常はEV/EBTIDAマルチプル法のことを指します。

EV/EBITDAマルチプル法における株式価値の考え方は、大きくは以下の4つのステップから成ります。

  • ①事業価値(EV)の算出
    まず、対象会社のEBITDAと類似会社から算定したマルチプルを用いて、対象会社の事業価値(EV)を算出します。
  • ②現預金等の加算
    次に、事業価値(EV)に対象会社の現預金等を加算します。
  • ③有利子負債の減算
    続いて、事業価値(EV)と現預金等の合計額から、対象会社の有利子負債を減算します。
  • ④株式価値の算出
    結果として、対象会社の株式価値が算出されます。

こちらが、EV/EBITDAマルチプル法における株式価値の考え方になります。

この点は非常に重要な点であるため、きちんと理解しておきましょう。

EBITDA

EBITDA

続いて、EV/EBITDAマルチプル法における個別の構成要素を見ていきます。

まず、EBITDAです。

EBITDAは、Earnings Before Interest, Tax, Depreciation and Amortizationの略称で、「イービッダー」や「イービットディーエー」などと呼ばれます。

日本語では「償却前営業利益」と呼ばれることが多く、簡易的には以下のように計算されます。

  • EBITDA=営業利益+減価償却費+のれん償却費

EBITDAは、営業利益に非資金費用である減価償却費やのれん償却費を足し戻したもので、会社のキャッシュフローの創出力を示す指標になります。

マルチプル(EV/EBITDAマルチプル)

マルチプル(EV/EBITDAマルチプル)

次に、マルチプルについてです。

マルチプルは、英語のMultipleのことであり、日本語で「倍率」を意味します。

EV/EBITDAマルチプルは、事業価値(EV)とEBITDAの比率(倍率)になります。

EV/EBITDAマルチプル法において、マルチプルは以下の2段階で計算され、対象会社の株式価値の算出に用いられます。

  • 第1段階:マルチプルの算出
    対象会社と類似する上場会社(類似会社)の財務指標から、EV/EBITDAマルチプルを計算します。
    具体的な計算式は、以下の通りです。EV/EBITDAマルチプル=事業価値(EV)÷EBITDA
  • 第2段階:マルチプルを用いた対象会社の株式価値の算出
    第1段階で算出したEV/EBITDAマルチプルを用いて、対象会社の事業価値・株式価値を計算します。
    具体的な計算方法は、上述の通り、以下の計算となります。EBITDA×マルチプル=事業価値
    事業価値+現預金等−有利子負債=株式価値

マルチプルの具体的な計算方法については、別途取り上げて検討します。

広義のマルチプル法

広義のマルチプル法上述の通り、M&Aの現場で「マルチプル法」という場合、「EV/EBITDAマルチプル法」を指すのが一般的です。

一方、企業価値評価の分野でマルチプル法という場合、EV/EBITDAマルチプル法に限らず、より広い意味でのマルチプル法(広義のマルチプル法)を指すことになります。

広義のマルチプル法という場合、以下のような手法が挙げられます。

  • 事業価値を算出する手法(事業価値マルチプル法)
    • EV/EBITDAマルチプル法
    • EV/EBITマルチプル法
  • 株式価値を算出する手法(株式価値マルチプル法)
    • PER(株価収益率)
    • PBR(株価純資産倍率)
    • PSR(株価売上高倍率)

事業価値を算出するマルチプル法を「事業価値マルチプル法」といい、株式価値を算出するマルチプル法を「株式価値マルチプル法」と整理します。

ここで、事業価値マルチプル法と株式価値マルチプル法の関係につき、整理していきましょう。

事業価値マルチプル法の計算手法に基づくと、財務指標とマルチプル(事業価値マルチプル)から事業価値が計算されます。

ここに現預金等を加算し、有利子負債を減算すると、株式価値が算出されます。

一方、株式価値マルチプル法の計算手法に基づくと、財務指標とマルチプル(株式価値マルチプル)から株式価値が直接計算されます。

株式価値マルチプル法から事業価値を求めたい場合は、株式価値に有利子負債を加算し、そこから現預金等を減算するという事業価値マルチプル法とは逆のプロセスを経ることになります。

以上が、広義のマルチプル法の概要です。

M&Aの価格の考え方における位置付け

続いて、マルチプル法は、M&Aの価格の考え方における全体像の中で、どのように位置付けられるのかを見ていきます。

マルチプル法は、理論的手法のマーケットアプローチ、及び実務的手法のマルチプル法として、全体の中で位置付けられます。

理論的手法としてのマルチプル法

マーケットアプローチにおけるマルチプル法まず、理論的手法におけるマルチプル法の位置付けにつき、見ていきます。

企業価値評価を理論的に分類した場合、インカムアプローチ・マーケットアプローチ・コストアプローチの3つのアプローチに分類されます。

インカムアプローチは、対象会社の将来キャッシュフローに基づく評価手法です。

インカムアプローチの代表例として、DCF法や配当割引モデルが挙げられます。

次に、マーケットアプローチです。

マーケットアプローチは、対象会社と類似する上場会社の指標や他の取引事例に基づく評価手法です。

今回のテーマであるマルチプル法は、マーケットアプローチの手法のひとつです。

続いて、コストアプローチです。

コストアプローチは、対象会社の貸借対照表の資産・負債の価値に基づく評価手法です。

コストアプローチの代表例として、修正純資産法が挙げられます。

マーケットアプローチにおけるマルチプル法

マーケットアプローチの中におけるEV/EBITDAマルチプル法の位置付けでは、マーケットアプローチの中におけるEV/EBITDAマルチプル法の位置付けにつき、見ていきましょう。

マーケットアプローチの手法は、市場価格を直接利用するものと、市場価格と財務指標の相対的な関係を間接的に利用するものの2つに大きく大別されます。

市場価格を直接利用するものの例として市場株価法や取引事例法が挙げられます。

市場株価法は、基本的には上場会社において用いられる評価手法で、市場株価を基準に、対象会社の株式価値を算出します。

また、取引事例法は、対象会社の過去の取引価格を基準に、対象会社の株式価値を算出します。

次に、市場価格と財務数値の相対的な関係を間接的に利用するものとして、類似会社(企業)比較法や類似取引比較法が挙げられます。

類似会社比較法は、今回取り上げているEV/EBITDAマルチプル法に代表される通り、対象会社と類似する上場会社(類似会社)のマーケット指標と財務数値の比率を利用して、対象会社の株式価値を算出する手法です。

類似取引比較法は、対象会社と類似する会社のM&Aの取引を参考に、対象会社の株式価値を評価する手法です。

類似会社比較法におけるマルチプル法

類似会社比較法におけるマルチプル法

ここで、今回取り上げているマルチプル法が含まれている類似会社比較法につき、掘り下げていきましょう。

類似会社比較法は、広義のマルチプル法に相当する手法です。

類似会社比較法は、事業価値を算出するものと株式価値を算出するものに分けられます。

事業価値を算出する手法として、EV/EBITDAやEV/EBITが挙げられます。

これらのマルチプルは、事業価値(EV)を算出するためのマルチプルであるため、事業価値マルチプルと呼ばれます。

また、株式価値を算出する手法として、PER・PBR・PSRなどが挙げられます。

これらのマルチプルは、株式価値を算出するためのマルチプルであるため、株式価値マルチプルと呼ばれます。

繰り返しになりますが、M&Aの実務で最もよく用いられているマルチプル法は、類似会社比較法のEV/EBITDAマルチプル法になります。

以上が、理論的手法におけるマルチプル法の位置付けになります。

実務的手法としてのマルチプル法

実務的手法としてのマルチプル法続いて、実務的手法におけるマルチプル法を見ていきましょう。

中小企業などのM&Aの現場で多く用いられているのは、マルチプル法と年買法です。

マルチプル法は理論的手法のひとつですが、計算が比較的簡易であり、また直感的に理解しやすいため、M&Aの現場でよく用いられています。

一方、年買法は、M&Aの現場で発展してきた考え方です。

対象会社の純資産をスタート地点として、そこに資産・負債の含み損益を考慮して修正純資産を計算し、その上にのれんとして営業利益などの利益指標の数年分を加算し、対象会社の株式価値を計算するという手法です。

マルチプル法は、その計算の簡易さや直感的な理解のしやすさから、年買法と並び、M&Aの現場でよく利用されている実務的手法のひとつとなっています。

以上が、M&Aの価格の考え方におけるマルチプル法の位置付けです。

マルチプル法のメリットとデメリット

マルチプル法のメリットとデメリット続いて、マルチプル法のメリット・デメリットにつき、見ていきましょう。

この点については、以下の2つに区分して検討していきます。

  • 広義のマルチプル法のメリット・デメリット(他の手法との比較)
  • 狭義のマルチプル法(EV/EBITDA)のメリット・デメリット(他のマルチプル法との比較)

すなわち、前者は「広義のマルチプル法と他の手法」の比較、後者は「EV/EBITDAマルチプル法と他のマルチプル法の比較」となります。

マルチプル法のメリット

まず、マルチプル法のメリットから見ていきましょう。

広義のマルチプル法のメリット

広義のマルチプル法のメリットはじめに、他の評価手法と比較した場合の広義のマルチプル法のメリットにつき、見ていきます。

基本的には、理論的手法におけるインカムアプローチ・コストアプローチに対するマーケットアプローチのメリットと捉えることができます。

こちらのメリットとして、以下の4点が挙げられます。

  • 計算が容易で、直感的に理解しやすい
  • 市場環境を反映できる
  • 客観性が高い
  • 将来価値も一定程度考慮できる

以下、個別に見ていきましょう。

計算が容易で、直感的に理解しやすい

計算が容易であり、直感的に理解しやすい
第1に、計算が容易であり、直感的に理解しやすいことが挙げられます。

マルチプル法においては、マルチプルの算出が終われば、あとは四則演算で簡単に計算することができます。

特に、M&Aの初期的な場面で、限られた情報で価格イメージを掴むことができる点が最大の利点と言えます。

これに対し、例えばDCF法の場合、資本コストの計算や将来キャッシュフローの割引の計算など、計算過程が複雑で簡単に計算することができません。

市場環境を反映できる

市場環境を反映できる

第2に、市場環境を反映できる点が挙げられます。

マルチプル法では、上場会社の指標を参照するため、株式市場における取引環境を反映することができます。

客観性が高い

客観性が高い
第3に、客観性が高いことが挙げられます。

マルチプル法で用いられるマルチプル(倍率)は、上場会社の指標を基に算出されるため、主観的な要素が入りにくく、相対的に客観性が高い評価手法と言えます。

将来価値も一定程度考慮できる

対象会社の将来価値も一定程度考慮できる
第4に、対象会社の将来価値も一定程度考慮できる点が挙げられます。

マルチプル法は、上場会社の指標から算出したマルチプル(倍率)を用いますが、そもそも上場会社の株式は将来価値を考慮した上で日々取引されていると考えられるため、マルチプルには市場参加者が考える各社の将来性に対する認識が反映されていると言えます。

マルチプル法は、マルチプル(倍率)を用いることで、間接的に市場参加者が考える将来価値についても考慮することができると言えます。

狭義のマルチプル法(EV/EBITDAマルチプル法)のメリット

狭義のマルチプル法(EV/EBITDAマルチプル法)のメリット

次に、マルチプル法の中におけるEV/EBITDAマルチプル法のメリットについてです。

すなわち、EV/EBITマルチプル法やPER・PBR・PSRといった他のマルチプル法と比較した場合のEV/EBITDAマルチプル法のメリットにつき、検討していきましょう。

こちらのメリットとして、以下の3点が挙げられます。

  • キャッシュフローの創出力であるEBITDAを指標としている
  • 複数事業を営む会社の評価に適している
  • 特別損益などの影響を受けない

以下、個別に見ていきましょう。

キャッシュフローの創出力であるEBITDAを指標としている

対象会社のキャッシュフローの創出力を表すEBITDAを計算指標としている
第1に、対象会社のキャッシュフローの創出力を表すEBITDAを計算指標としている点です。

上述の通り、EBITDAは、簡易的には以下の算式で計算されます。

  • EBITDA=営業利益+減価償却費+のれん償却費

このため、短期的・一時的な設備投資などの影響により営業利益が減っている場合も、減価償却費を考慮することで、より正常な水準のキャッシュフローの創出力を基準に事業価値・株式価値を算出することができます。

一方、後述の通り、EBITDAよりもEBIT(≒営業利益)の方が長期的なキャッシュフローの創出力を表す指標として適切と考える余地もありますので、その点は対象会社の事業内容や設備投資などを踏まえ、検討する必要があります。

複数事業を営む会社の評価に適している

複数の事業を営む会社の評価にも適している
第2に、複数の事業を営む会社の評価にも適しているという点が挙げられます。
例えば、対象会社が複数の事業を営んでいる場合、事業ごとにEBITDAを把握し、事業ごとの類似会社から選定したマルチプルを用いることで、事業ごとの事業価値を算出することができます。

それらを合算することで、会社全体としての事業価値を算出することができます。

一方、PERなどの株式価値マルチプルを用いた場合、事業ごとに最終利益を算出し、事業ごとの株式価値を算出する余地もありますが、一般的にはEBITDAを用いる場合に比べより計算が煩雑となるため、実務的には利用しづらい面があります。

特別損益などの影響を受けない

特別利益などの一時的な損益要因の影響を受けない
第3に、特別利益などの一時的な損益要因の影響を受けない点が挙げられます。
この点は、EV/EBITDAマルチプル法がEBITDAを計算指標として利用しているためです。

EBITDAは、以下の計算式から算出されるため、特別損益の影響を受けません。

  • EBITDA=営業利益+減価償却費+のれん償却費

このため、より正常・定常的なキャッシュフローの創出力に基づいた価値算定を行うことができます。

これに対し、PERなど最終損益を計算指標として利用するマルチプル法の場合、特別損益の影響も受けることになります。

マルチプル法のデメリット

次に、マルチプル法のデメリットにつき、見ていきましょう。

デメリットについても、メリットの場合と同様、以下の2つに区分して検討していきます。

  • 広義のマルチプル法のデメリット(他の手法と比較)
  • 狭義のマルチプル法(EV/EBITDA)のデメリット(他のマルチプル法と比較)

広義のマルチプル法のデメリット

広義のマルチプル法のデメリット

はじめに、他の手法(特にインカムアプローチやコストアプローチ)と比較した場合の広義のマルチプル法のデメリットについてです。

こちらのデメリットとして、以下の3点が挙げられます。

  • 類似会社の選定が難しい
  • 固有の性質の反映が難しい
  • 市場環境が特殊な状況下では、使用が難しい

以下、個別に見てきましょう。

類似会社の選定が難しい

類似会社の選定が難しい
第1に、類似会社の選定が難しいという点が挙げられます。

マルチプル法では、上場会社の中から対象会社と事業内容や成長段階・規模などが類似する会社(類似会社)を選定し、マルチプルを計算します。

ここで、実務的には類似会社の選定が意外と難しく、適切な類似会社が存在しないというケースもそれなりに存在します。

また、類似会社の選定に際し、一定の恣意性や主観的判断が介在する余地もあります。

この点、マルチプル法を使用する場合における最も難しい点と言えます。

固有の性質の反映が難しい

対象会社の固有の性質を反映することが難しい
第2に、対象会社の固有の性質を反映することが難しいという点が挙げられます。

マルチプル法は、基本的には上場会社の指標から算出したマルチプルに依拠した評価手法であり、対象会社の成長段階や規模など、固有の要因を考慮し評価に反映する余地が限定的です。

一方、DCF法などの場合、対象会社の成長率など、個別の要因を考慮することができるため、個別性の強い対象会社の評価においてはより適しているということができます。

市場環境が特殊な状況下では、使用が難しい

市場環境が特殊な状況下では、マルチプル法の使用が難しい
第3に、市場環境が特殊な状況下では、マルチプル法の使用が難しいという点が挙げられます。

マルチプル法では、上場会社の市場指標(株式時価総額)を参照しているため、市場環境の影響を受けることになります。

この点、市場が短期的に大きく変動しているような場合、その時点における市場指標を参照したマルチプル(倍率)を利用することが適切ではないというケースがあり得ます。

狭義のマルチプル法(EV/EBITDAマルチプル法)のデメリット

狭義のマルチプル法(EV/EBITDAマルチプル法)のデメリット

続いて、他のマルチプル法と比較したEV/EBITDAマルチプル法のデメリットにつき、見ていきましょう。

こちらのデメリットとして、以下の3つが挙げられます。

  • 株式価値マルチプルに比べて、計算の手間がかかる
  • 長期的にはEBITDAよりEBITの方が適切と考えられるケースもある
  • 類似会社/対象会社のEBITDAがマイナスの場合、使用できない

以下、個別に見てきましょう。

株式価値マルチプルに比べて、計算の手間がかかる

計算の手間がかかる
第1に、PERやPBRなどの株式価値マルチプルに比べ、EV/EBITDAマルチプルなどの事業価値マルチプルは、計算の手間がかかる点が挙げられます。
株式価値マルチプルであるPERやPBRの場合、株価情報サイトなどで掲載されているケースが多く、簡単に確認することができます。

一方、事業価値マルチプルの場合、数値が掲載されている情報サイトが限定的であり、また自分で計算する場合も、株式価値マルチプルに比べ、計算の手間がかかります。

長期的にはEBITDAよりEBITの方が適切と考えられるケースもある

長期的にはEBITDAよりもEBITの方が計算指標としてより適切と考えられる
第2に、長期的にはEBITDAよりもEBITの方が計算指標としてより適切と考えられるケースもあります。
EBITDAは償却前営業利益であるのに対し、EBITは実質的に営業利益に相当する概念です。

念のため式で表すと、簡易的には以下の通りです。

  • EBITDA=営業利益+減価償却費+のれん償却費
  • EBIT=営業利益

EBITDAは、対象会社のキャッシュフローの創出力を表します。

但し、この点を長期的な視点で検討すると、長期的には設備投資金額によるキャッシュアウトと減価償却費による非資金費用が同等となると考えられるため、長期的なキャッシュフローの創出力の指標としては、EBITDAよりもEBITの方が適していると捉えることもできます。

この点、対象会社の事業内容や設備投資方針などにも影響を受けるため、個別に検討が必要となります。

類似会社/対象会社のEBITDAがマイナスの場合、使用できない

EV/EBITDAマルチプル法を使用することができない

第3に、類似会社や対象会社のEBITDAがマイナスの場合、EV/EBITDAマルチプル法を使用することができないという点が挙げられます。

まず、類似会社のEBITDAがマイナスの場合、算出されるマルチプルもマイナスとなるため、マルチプル法で使用することができなくなります。

また、対象会社のEBITDAがマイナスの場合も、算出される事業価値がマイナスとなるため、マルチプル法を使用するのが適当とは言い難くなります。

以上、今回は以下のテーマに沿って、マルチプル法の概要につき検討しました。

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