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ポーターの3つの基本戦略とは、コストリーダーシップ戦略・差別化戦略・集中戦略の3つを指し、経営戦略やマーケティングを学ぶ過程で、耳にしたことがある方も多いと思います。
一方、ビジネスの現場で実際に使ったことがある方は、意外と少ないのではないでしょうか。
経営企画部門や戦略コンサルタントの方々にとっては使い慣れたフレームワークだと思いますが、M&AにおけるビジネスDD(事業DD)を行う際にも活用できます。
ある会社や事業を買収する場合、DDの一環として対象会社の事業の分析を行いますが、対象会社が属している業界内における位置付けや採用している戦略、及びその戦略の裏付けとなっている対象会社の強みを分析する場合、3つの基本戦略のフレームワークの活用は非常に有効です。
競争優位の源泉を掘り下げ、対象会社の強みや課題をより深く理解することで、M&A実行時だけでなく、実行後のバリューアッププランの策定にも役立てることができます。
本記事では、上図のテーマに沿って、ポーターの3つの基本戦略の概要や留意点、ビジネスDDにおける活用方法などを解説します。
《執筆者》
PEファンド・M&Aアドバイザリーの実務経験があるSOGOTCHA(ソガッチャ)スタッフが執筆しました。
ポーターの3つの基本戦略とは
概要
ポーターの3つの基本戦略とは、ハーバード大学のマイケル・ポーター教授が提唱した、業界内で競争優位を確立し、維持するための3つの競争戦略のことです。
具体的には、次の3つを指します。
- ①コストリーダーシップ戦略
- ②差別化戦略
- ③集中戦略
- ③-1. コスト集中戦略
- ③-2. 差別化集中戦略
③集中戦略は、競争優位をコストに求めるか、あるいは差別化に求めるかで2つに細分化されます。
一般的に、これらの3つの基本戦略は、次の図のように整理されます。
ここで、これらの3つの基本戦略は、次の2つの軸に沿って整理されています。
- 軸1:ターゲット市場
1つ目の軸は、ターゲットとする市場です。
ポーターは、ターゲットとすべき市場につき、2つに区別しています。- 業界全体
自社が属する業界全体をターゲットとする。 - 特定分野(ニッチ市場)
自社が属する業界の中で、自社に有利な特定分野だけをターゲットとする。
- 業界全体
- 軸2:競争優位
2つ目の軸は、自社が何を強みとして競争を挑むか、すなわち自社の競争優位を何に求めるかです。
この点、ポーターは次の2つに区別しています。- コスト
コスト競争力(低コスト)、及びそれによって実現される低価格を強みとする。 - 差別化
自社のみが有する特異性による他社との差別化を強みとする。
- コスト
4つのポイント
続いて、3つの基本戦略に関するポイントにつき、次の4つに整理します。
- ポイント① 戦略は3つしか無い
1つ目のポイントは、「企業が採るべき戦略は、基本戦略の3つしか無い」という点です。
この点、「3つの基本戦略に当てはまらないような中途半端な戦略は採るべきでは無い」と言い換えることができます。
ポーターの3つの基本戦略の最大の特徴は、「戦略は3つしか無い」と大胆に言い切った点にあります。 - ポイント② 戦略はひとつに絞る
2つ目のポイントは、「3つの基本戦略のうち、採るべき戦略はひとつに絞る」という点です。
これは、「1つの事業で2つの戦略を同時に採ることはできない」と言い換えることができます。 - ポイント③ 競争優位の源泉が重要
3つ目のポイントは、企業の競争優位を生み出す要因(源泉)が重要である点です。
ポーターの3つの基本戦略では、競争優位は「コスト」か「差別化」の2つしかありません。
その競争優位を生み出す要因、すなわち競争優位の源泉は何かを深堀し、理解する必要があります。 - ポイント④ 競争優位の「確立」と「維持」の2段階で考える
4つ目のポイントは、競争優位の「確立」と「維持」の2つの段階で考える点です。
すなわち、上記3つの基本戦略に沿って自社の競争優位を「確立」した後も、常に顧客ニーズや業界トレンドの変化を捉えつつ、その競争優位を「維持」できるように努める必要があります。
参考①:ファイブフォース分析との関係
ファイブフォース分析と3つの基本戦略との関係について説明します。
ファイブフォース分析は、企業が属する「業界」の魅力度を分析するフレームワークです。業界の魅力度は、5つの要因(①業界内の競合状況、②売り手の交渉力、③買い手の交渉力、④新規参入の脅威、⑤代替品の脅威)に基づいて分析されます。
一方、3つの基本戦略は、ファイブフォース分析が分析対象とした「業界」の中で、企業が持続的な競争優位を築くための戦略を示しているものです。
すなわち、ファイブフォース分析は「業界」そのものを分析対象とするのに対し、3つの基本戦略は「業界内における企業のポジショニング」を分析するものです。
▽関連記事:5つの力で産業分析|ポーターのファイブフォース分析とは
参考②:コトラーの競争地位別戦略
競争戦略のフレームワークとして、ポーターの3つの基本戦略と並び有名なのが、コトラーの競争地位別戦略です。
コトラーの競争地位別戦略は、「業界内における事業競争上の自社の地位を把握し、その地位に応じた戦略(競争地位別戦略)を採るべき」というものです。
コトラーの競争地位別戦略は、次の2つのステップで考えることができます。
- 第1段階:企業の競争地位の確認
上図の通り、「経営資源の量」と「経営資源の質」の2つの軸に沿って、自社の地位を把握します。 - 第2段階:地位に応じた採るべき競争戦略の検討
企業の地位に応じて、具体的に採るべき競争戦略を検討します。
ポーターの3つの基本戦略とコトラーの競争地位別戦略、それぞれの視点から分析することで、企業の業界内におけるポジショニングや競争優位の源泉、採るべき具体的な戦略などにつき、より深く理解することができます。
①コストリーダーシップ戦略
概要
コストリーダーシップ戦略とは、「広い顧客を対象とすべく業界全体をターゲット市場とし、コスト競争力(及びそれによって実現される価格競争力)を強みに競合他社と戦う戦略」を指します。
3つの基本戦略の2軸に沿って整理すると、次の通りです。
- ターゲット市場:業界全体
- 競争優位:コスト
後述の通り、コスト競争力の源泉は規模の経済や経験曲線効果など、業界トップクラスの企業でないと実現が難しいものです。このため、コストリーダーシップ戦略は、業界のトップクラスの企業のみが選択できる戦略であると言えます。
外部要因:市場環境
コストリーダーシップ戦略が有効に機能するためには、ターゲット市場が次のような特性を有している必要があります。
- 価格感応度が高い
顧客が価格に敏感な市場である場合、コスト競争力が重要です。 - 製品・サービス間の差別化が難しい
製品・サービスで競合他社と差別化を図ることが難しい場合、価格が重要な決定要因となります。
内部要因:競争優位の源泉
コストリーダーシップ戦略の競争優位は、コスト競争力(低コスト)に求められます。
ここで、コスト競争力は次のような要因(競争優位の源泉)から生み出されます。
- 規模の経済(製造原価の低下)
規模の経済とは、生産量が増加するにつれて単位当たりの製造原価が低下することを意味します。
通常、製造原価は固定費と変動費に分けることができますが、生産量が増えるほど単位当たりの固定費は低下していくため、固定費と変動費から構成される単位当たり製造原価が低減していきます。 - ボリュームディスカウント(仕入原価の低下)
ボリュームディスカウントとは、大量購入に伴う値引きを指します。大手企業が製品・サービスで使用する材料や部品を大量に購入する場合、ボリュームディスカウントによって仕入原価を低下させる余地があります。
通常、ボリュームディスカウントは購入量が大きいほどディスカウント幅も大きくなるため、業界トップクラスの大手企業になるほど、ボリュームディスカウントの効果も大きくなります。 - 経験曲線効果
経験曲線効果とは、生産量が増加するほど単位当たりコストが低下していくことを意味します。
製造業に限らず、サービスなども提供量(経験)が増えるにつれて効率化され、間接費を含む総コストが低減していく効果を意味します。
ここで取り上げた3つの競争優位の源泉は、いずれも業界トップクラスの企業にとって有利に働くものです。すなわち、業界トップで生産量の多い企業ほど、規模の経済も働き経験曲線効果も高く、また材料・部品などの仕入も大きくなるためボリュームディスカウントの幅も大きくなります。
このように、コストリーダーシップ戦略に必要となる競争優位の源泉は、業界トップクラスの大手企業でないと実現が難しいものです。このため、コストリーダーシップ戦略の採用は、現実的には業界のトップクラスの企業のみに限定されます。
ファイブフォース分析との関係
ここで、コストリーダーシップ戦略とファイブフォース分析の関係を見ていきます。
コストリーダーシップ戦略は業界内における競争優位を確立・持続するための戦略ですが、コストリーダーシップで競争優位を確立できた場合、業界としての魅力度も向上させる可能性があります。
- 業界内の競合状況
コストリーダーシップ戦略で競争優位を確立できた場合、業界内の競合他社に対し、頭ひとつ抜け出した状態になると言えます。 - 売り手の交渉力
コストリーダーシップ戦略を採用する業界トップクラスの企業は、業界内の競合他社に比べてマージン(利幅)が厚くなるため、売り手からの値上げ交渉に対しても、競合他社に比べて余力を持って対応することができます。 - 買い手の交渉力
売り手の交渉力の点と同様に、買い手からの値下げ交渉に対しても、競合他社に比べて柔軟に対応することができます。 - 新規参入の脅威
規模の経済や経験曲線効果など、コストリーダーシップ戦略の裏付けとなる競争優位の源泉がそのまま新規参入に対する参入障壁として機能します。 - 代替品の脅威
コストリーダーシップ戦略を採る企業の場合、他社に比べてマージン(利幅)があるため、代替品の脅威に対する耐性が競合他社よりもあると言えます。
以上のように、コストリーダーシップ戦略の確立は、業界内における地位の確立に留まらず、業界そのものの魅力を上げる可能性もあります。
リスク
コストリーダーシップ戦略に伴うリスクについて検討していきます。
コストリーダーシップ戦略は業界トップクラスの企業のみが実施できる戦略であるため、一度確立してしまえば他社に対する高い競争優位性を発揮できます。しかし一方で、競争優位の確立・維持には次のようなリスクも伴う点、留意しておきましょう。
- 重い投資負担
コストリーダーシップ戦略における競争優位の源泉である規模の経済や経験曲線効果は、業界トップクラスの生産量から生み出されます。このため、業界トップクラスの生産量を維持・拡大し続けるために、断続・継続的な投資負担が発生します。 - 技術革新による低コスト化の実現
コストリーダーシップ企業として盤石な体制を築いたとしても、技術革新(イノベーション)によって、思いも掛けない側面から低コスト化が実現される可能性もあります。このような場合、コストリーダーシップ企業の競争優位が失われるリスクがあります。 - コスト集中戦略の企業との競争
特定分野(ニッチ市場)に特化したコスト集中戦略を採用する企業との競争において、特定分野における競争に敗れるリスクがあります。複数の特定分野で、それぞれのニッチトップ企業との価格競争に敗れた場合、一定の市場を失うことになります。 - 顧客ニーズの変化(価格<差別化)
顧客ニーズの変化により、価格ではなく差別化が重視される状況に変化するケースがあります。そのような変化を見逃した場合、コストリーダーシップ企業が確立した優位性が失われるリスクがあります。
このようなリスクが存在することを認識した上で、コストリーダーシップ戦略の確立・維持に努める必要があります。
②差別化戦略
概要
差別化戦略とは、「広い顧客を対象とすべく業界全体をターゲット市場とし、自社の独自性(他社に対する差別化要因)を強みに競合他社と戦う戦略」を指します。
3つの基本戦略の2軸に沿って整理すると、次の通りです。
- ターゲット市場:業界全体
- 競争優位:差別化
外部要因:市場環境
差別化戦略が有効に機能するためには、ターゲット市場が次のような特性を有している必要があります。
- 価格感応度が低い
顧客が価格に敏感でない市場の場合、コスト競争力よりも差別化要因が重要です。 - 製品・サービス間の差別化が重要
製品・サービスで競合他社との差別化が重視される場合、多少の価格差よりも差別化要因が重要です。
内部要因:競争優位の源泉
差別化戦略の競争優位は、競合他社との差別化に求められます。
差別化は、次のような要因(競争優位の源泉)から生み出されます。
- 機能面での差別化
機能面における差別化です。
競合他社の製品が有していない付随機能を持たせることで、差別化を図ります。 - 品質面での差別化
品質面における差別化です。
競合他社の製品に比べ品質で差をつけることで、差別化を図ります。 - ブランド価値による差別化
企業や製品・サービスが有するブランド価値による差別化です。
顧客の高いロイヤリティを獲得することで、競合他社との差別化を図ります。 - 付随的サービスによる差別化
アフターサービスや無料配送、製品保証など、付随的サービスによる差別化です。
差別化戦略を採用する場合、競争優位の源泉となる差別化要因をどこに求めるか、自社の強みや競合他社の動向を踏まえ、検討する必要があります。
VRIO分析との関係
差別化要因(競争優位の源泉)を検討するにあたっては、VRIO分析を活用することができます。
VRIO分析とは、企業が有する経営資源を次の4つの観点から分析し、競合他社に対する競争優位の源泉となり得るかを分析する手法です。
- Value(経済価値)
顧客にとって価値があるものを生み出しているか? - Rarity(希少性)
少数企業だけが持っているものか? - Inimitability(模倣困難性)
競合他社が容易に模倣できないものか? - Organization(組織)
組織として経営資源を十分に活用できる仕組みが整っているか?
これら4つの観点から企業の経営資源を分析・評価し、競争優位の源泉を見極めていくことになります。
ファイブフォース分析との関係
コストリーダーシップ戦略と同様、差別化戦略も確立・維持することができれば、業界内における競争優位を実現できるだけでなく、業界そのものの魅力度を向上させることもできます。
以下、ファイブフォース(5つの要因)に沿って検討していきます。
- 業界内の競合状況
差別化戦略で競争優位を確立できた場合、業界内の競合に対し有利な立場にあると言えます。 - 売り手の交渉力
差別化戦略を採る企業の場合、業界内の競合他社に比べてマージン(利幅)が厚くなるため、売り手からの値上げ交渉に対しても、競合他社に比べて余力を持って対応することができます。 - 買い手の交渉力
売り手の交渉力の点と同様に、差別化戦略を採る企業においては競合他社に比べてマージン(利幅)が厚くなるため、買い手からの値下げ交渉に対しても、競合他社に比べて柔軟に対応することができます。 - 新規参入の脅威
差別化戦略の競争優位の源泉となる差別化要因が、新規参入者に対する参入障壁として機能する場合、新規参入の脅威を低減することができます。 - 代替製品の脅威
差別化戦略を採る企業の場合、他社に比べてマージン(利幅)があるため、代替品の脅威に対する耐性が競合他社よりもあると言えます。
以上のように、コストリーダーシップ戦略と同様、差別化戦略の確立は、業界内における地位の確立に留まらず、業界そのものの魅力を上げる可能性もあります。
リスク
差別化戦略を採用するにあたっては、次のようなリスクが存在している点に留意する必要があります。
- 競合他社による模倣
差別化要因が競合他社にとって模倣可能である場合、競合他社が類似製品・サービスを販売することで、差別化による競争優位が失われるリスクがあります。 - コストリーダーシップ企業とのコスト差の拡大
業界内で低価格製品を提供するコストリーダーシップ企業との間でコスト差が拡大し、差別化要因によるメリットを価格差が上回ると、顧客を低価格製品に奪われるリスクがあります。 - 差別化集中戦略の企業との競争
特定分野(ニッチ市場)に特化した差別化集中戦略を採用する企業との競争において、特定分野での競争に敗れるリスクがあります。複数の特定分野で、それぞれのニッチトップ企業との差別化競争に敗れた場合、一定の市場を失うことになります。 - 顧客ニーズの変化
顧客ニーズの変化により、差別化よりも価格が重視される状況に変化するケースがあります。そのような変化を見逃した場合、差別化戦略を採る企業が確立した優位性が失われるリスクがあります。
このようなリスクが存在することを認識した上で、差別化戦略の確立・維持に努める必要があります。
③集中戦略
概要
集中戦略とは、「業界内の特定の顧客を対象とすべく特定分野をターゲット市場とし、そこに経営資源を集中し、競合他社と戦う戦略」を指します。競争優位をコストに求めるか差別化に求めるかにより、コスト集中戦略と差別化集中戦略に細分化することもできます。
3つの基本戦略の2軸に沿って整理すると、次の通りです。
- ターゲット市場:特定分野
- 競争優位:コストまたは差別化
外部要因:市場環境
集中戦略が有効に機能するためには、ターゲット市場が次のような特性を有している必要があります。
- セグメント区分が可能
地理(エリア)・顧客層・製品などの観点からセグメント区分が可能な市場において、特定分野(ニッチ市場)を対象とする集中戦略が有効に機能します。
内部要因:競争優位の源泉
集中戦略を実現するための競争優位の源泉として、次のようなものが考えられます。
- コスト集中戦略:特定分野におけるコスト優位性の確立
- 規模の経済
- ボリュームディスカウント
- 経験曲線効果
- 差別化集中戦略:特定分野における差別化優位性の確立
- 機能的差別化
- 品質的差別化
- ブランド価値による差別化
- 付加価値による差別化(アフターサービスなど)
これらの競争優位の源泉は、それぞれコストリーダーシップ戦略・差別化戦略のものと同様ですが、それらを特定分野(ニッチ市場)に集中し、その分野における地位の確立を図ます。
リスク
集中戦略を採用するにあたっては、次のようなリスクが存在している点に留意する必要があります。
- 業界大手による特定分野(ニッチ市場)への参入
業界大手が特定分野(ニッチ市場)に参入してきた場合、その圧倒的な資本力を背景に、集中戦略を採る企業が築いた特定分野におけるコスト優位性や差別化優位性が失われるリスクがあります。 - 特定分野(ニッチ市場)そのものの縮小・消失
顧客ニーズや業界トレンドの変化、規制緩和などにより、特定分野(ニッチ市場)そのものが縮小したり消失したりするリスクがあります。
集中戦略を採用するにあたっては、このようなリスクに留意する必要があります。
3つの基本戦略の留意事項
3つの基本戦略のフレームワークを利用する場合、特に次の2点に留意する必要があります。
留意事項① 1つの戦略を選択
1つ目は、1つの戦略を選択することの重要性です。
冒頭の「3つの基本戦略の4つのポイント」でも触れましたが、コストリーダーシップ戦略・差別化戦略・集中戦略は併用するものではなく、いずれか1つに絞り込んで利用する必要があります。
その上で、生産・販売・営業などの各機能をその戦略に沿って明確に実施することで効果を発揮します。
繰り返しになりますが、中途半端な戦略となった場合、その戦略が成功する確度は低下します。
留意事項② 変化への対応
2つ目は、競争優位を確立した後も、その優位性を維持するためには、変化に柔軟に対応する必要があることです。
従来はコストリーダーシップ戦略が優位性を保っていた市場においても、顧客ニーズやトレンドの変化により、価格優位性よりも差別化要因が重視されることになるケースがあります。このような変化を見逃さず、常に情報収集を行い、大胆に方針変換をする柔軟性を持つ必要があります。
3つの基本戦略は有用なフレームワークですが、上記の2点を特に意識した上で活用しましょう。
M&AのビジネスDDにおける応用
M&AのビジネスDDを行うにあたり、3つの基本戦略をどのように活用することができるか見ていきます。
①業界・事業の分析
3つの基本戦略のフレームワークを利用することで、次のような業界・事業の分析を行うことができます。
- 業界におけるポジショニング分析
3つの基本戦略のフレームワークに当てはめることで、対象会社の業界内のポジショニングを把握することができます。 - 競争優位の源泉の分析
対象会社の戦略方針を裏付ける競争優位の源泉を深堀していくことで、対象会社の事業内容や強みにつき、より深く理解することができます。
②バリューアッププランへの活用
業界・事業の分析を踏まえ、M&A実施後のバリューアッププランの具体策策定に活用することもできます。
- 競争優位の源泉の強化
ビジネスDDで把握した対象会社の競争優位の源泉を踏まえ、それらの要因を強化する、あるいは弱点を補強するような具体的な施策の策定に役立てることができます。 - 採るべき競争戦略の再検討
競争優位の源泉や競合他社の動向を踏まえ、対象会社が採るべき戦略を再検討します。競争優位(コスト/差別化)の転換やターゲット市場の変更(コスト集中戦略からコストリーダーシップ戦略への転換)などが考えられます。
まとめ
以上、今回は上図のテーマに沿って、競争戦略におけるポーターの3つの基本戦略を検討しました。
主なポイントをまとめると、以下の通りです。
- ポーターの3つの基本戦略とは、ターゲット市場と競争優位から分類される次の3つの競争戦略のこと
- コストリーダーシップ戦略
- 差別化戦略
- 集中戦略(コスト集中/差別化集中)
- 3つの基本戦略のポイントは、次の4点
- ポイント① 戦略は3つしかない
- ポイント② 戦略はひとつに絞る
- ポイント③ 競争優位の源泉が重要
- ポイント④ 競争優位の「確立」と「維持」の2段階で考える
- コストリーダーシップ戦略
- 広い顧客を対象とすべく業界全体をターゲット市場とし、コスト競争力(及びそれによって実現される価格競争力)を強みに競合他社と戦う戦略
- 外部要因:市場環境
- 価格感応度が高い市場
- 製品・サービスの差別化が難しい市場
- 内部要因:競争優位の源泉
- 規模の経済
- ボリュームディスカウント
- 経験曲線効果
- リスク
- 重い投資負担
- 技術革新による低コスト化の実現
- コスト集中戦略の企業との競争
- 顧客ニーズの変化(価格<差別化)
- 差別化戦略
- 広い顧客を対象とすべく業界全体をターゲット市場とし、自社の独自性(他社に対する差別化要因)を強みに競合他社と戦う戦略
- 外部要因:市場環境
- 価格感応度が低い市場
- 製品・サービスの差別化が重要な市場
- 内部要因:競争優位の源泉
- 機能面での差別化
- 品質面での差別化
- ブランド価値による差別化
- 付随的サービスによる差別化
- リスク
- 競合他社による模倣
- コストリーダーシップ企業とのコスト差の拡大
- 差別化集中戦略の企業との競争
- 顧客ニーズの変化
- 集中戦略
- 業界内の特定の顧客を対象とすべく特定分野をターゲット市場とし、そこに経営資源を集中し、競合他社と戦う戦略
- 外部要因:市場環境
- セグメント区分が可能
- 内部要因:競争優位の源泉
- コスト集中戦略:特定分野におけるコスト優位性の確立
- 差別化集中戦略:特定分野における差別化優位性の確立
- リスク
- 業界大手による特定分野(ニッチ市場)への参入
- 特定分野(ニッチ市場)そのものの縮小・消失
- 3つの基本戦略の留意事項
- 留意事項① 1つの戦略を選択
- 留意事項② 変化への対応
- M&AのビジネスDDにおける応用
- ①業界・事業の分析
- ②バリューアッププランへの活用